【公益法人の代表理事等の職務執行状況報告】

公益法人,理事,報告

記事の対象者

本記事は、「公益社団法人」、「公益財団法人」及び「一般社団法人」、「一般財団法人」の事務局や役員の方を対象としています。

また、本記事では、「公益社団法人」と「公益財団法人」を総称して「公益法人」と記載し、「一般社団法人」と「一般財団法人」を総称して「一般社団法人等」と記載することにします。

記事の概要

本記事は、法令に定められている「代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告」の法令上の解釈、理事会の開催回数との関係、実務的な報告内容及び報告方法、理事会の議事録への記載方法について注意点を解説します。

法令の内容

まず、代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告について法令における規定を説明します。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、「一般法人法」とします)第91条2項、第197条では、以下のように定められています。

「代表理事及び業務執行理事は、3か月に1回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。ただし、定款で毎事業年度に4ヶ月を超える間隔で2回以上その報告をしなければならない旨を定めた場合は、この限りではない。」

一般法人法第91条2項、第197条は、単に代表理事や業務執行理事となった理事の報告義務を定めているだけのように読むことも出来ます。

しかし、当該条文は、理事会の年間の最低開催回数を制約することになるため、実務的に非常に重要な規定となります。

理事会の開催回数の法令の定め

まず、一般法人法等の公益法人や一般社団法人等が遵守すべき法律において理事会の開催回数を直接定めた条文はありません。

しかし、代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告は、「理事会に報告」しなければならないと規定されているため、報告を行うためには、理事会を開催しなければならないことになります。

理事会の決議事項については、一般法人法96条、197条において「理事会の決議の省略」という制度があり、一定の条件を満たすことにより理事会を開催せずに決議を省略するということも可能となります。

しかし、代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告には、上記の理事会の決議の省略を適用することが出来ないため、報告のために理事会を開催する必要があることになります。そのため、当該報告義務は、理事会の年間最低開催回数を制約することになります。

参考:理事会の決議の省略の条文

理事会設置一般社団法人は、理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき理事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監事が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。

「毎事業年度に4箇月を超える間隔で2回以上」の解釈

次に、代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告の条文のうち、「ただし、定款で毎事業年度に4ヶ月を超える間隔で2回以上その報告をしなければならない旨を定めた場合は、この限りではない。」という記載の解釈について説明を行います。

この規定は、定款において報告回数を「毎事業年度に4ヶ月を超える間隔で2回以上」と記載した場合には、3ヶ月に1回の報告ではなく、当該回数の報告で良いとする内容のため、理事会の開催回数も少なくすることができるということになります。

理事会の開催回数を少なくすることが可能となる当該規定は、実務上、非常に重要となります。

例えば、「毎事業年度に4ヶ月を超える間隔で2回以上」という規定を定款に記載しない場合、原則に従い理事会は3ヶ月に1回以上を行う必要があります。

公益法人の理事は、非常勤の理事が多く、他に常勤の仕事を兼務している方が多数います。そのため、理事会の回数が多くなると、役員として業務の負担が増加し、本業である仕事に支障が生じてしまうという問題があります。

近年は、Web会議が普及したため、理事会の開催が容易になりましたが、それでもスケジュール調整なども必要となります。

また、「毎事業年度に4ヶ月を超える間隔で2回以上」という規定は、4ヶ月を超える間隔を空けて2回以上理事会を開催すれば良いということになりますが、この4ヶ月を超える間隔というのは、事業年度単位で考えます。

事例解説

3月決算であり、予算承認の理事会を3月、決算書承認の理事会を5月に実施しているとします。

以下のようなスケジュールで予算書と決算書の承認、職務執行報告を行っている公益法人で考えます。

スケジュール決議事項・報告事項
2024年3月15日(理事会開催)
予算書承認
代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告
2024年3月31日期末日
2024年5月15日(理事会開催)
決算書承認
代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告
2025年3月15日(理事会開催)
予算書承認
代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告

2024年3月15日の理事会と2024年5月15日の理事会を考えると4ヶ月超の間が空いていないため、3月と5月に理事会を開催するだけでは、要件を満たさないように思えます。

しかし、この4ヶ月の判定は、事業年度単位で行うため、4ヶ月超の間が空いて理事会を開催したかの判断は、2024年5月15日と2025年3月15日の理事会で行います。

上記の2回の理事会は、4ヶ月超の間を空けて開催しているため、法令の要件を満たすことになります。

したがって、公益法人の場合は、予算理事会を事業年度開始前、決算理事会を事業年度開始後3ヶ月以内に必ず実施する必要があるため、予算理事会と決算理事会と同時に代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告を報告事項として実施するようにすれば、当該報告義務の要件を満たすことになります。

公益法人の代表理事等報告の報告内容

代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告について、具体的にどのような報告を行えば良いのか質問を受けることが多くあります。

しかし、どのような報告を行えば良いかについては、法令上の具体的な定めがなく、「自己の職務の執行状況を報告しなければならない」とのみ規定されています。

報告義務は、代表理事や業務執行理事の職務の状況を各理事及び監事が把握し、理事会の監督、監事の監査を充実させるためと考えられます。

したがって、当該機能を有効に機能するために必要となる情報を各代表理事及び業務執行理事が善管注意義務の一環として決定すべき事項ということになります。

なお、こちらの報告内容として、公益法人の法人としての運営状況を報告しているケースを散見することがありますが、法令上「自己の職務の執行状況」となっており、かつ上記で記載したような理事会の監督、監事の監査機能の強化という観点から、代表理事及び業務執行理事の各自の職務の状況を報告しなければならない点には、注意が必要となります。

公益法人の代表理事等報告の報告方法

次に代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告の報告方法について解説します。

代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告は、原則として代表理事及び業務執行理事の各人が行う必要があります。

ただし、例えば二人の代表理事及び業務執行理事がいる場合、どちらかが代表して二人分の職務執行報告を行った場合であっても、理事会の監督機能を果たすことが可能な十分な報告がなされているのであれば、報告義務は果たされていると考えられています。

また、代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告を事務局が代行することも考えられます。この場合、法令違反となりませんが、報告義務を有する代表理事及び業務執行理事、監督機能を有する理事会の構成員である理事、監査機能を有する監事は、それぞれ自らの責任を果たすことが可能であるか検討しなければなりません。そのうえで、事務局では説明が不十分、または不適切であると判断した場合は、代表理事及び業務執行理事への報告を求める必要があると考えます。

公益法人の代表理事等報告の理事会議事録への記載

最後に代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告の理事会議事録への記載について解説します。

公益法人の行政庁による立入調査では、代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告が適切に行われているか必ず確認されます。

具体的には、議事録を査閲することにより確認が行われますので、報告を行った際は、必ず報告事項として代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告を行った旨を記載する必要があります。

本記事では、代表理事及び業務執行理事の職務執行状況報告の法令上の義務と実務的な注意点について解説しました。

一般法人法第91条2項、第197条に基づき、代表理事及び業務執行理事は定期的にその職務の執行状況を理事会に報告する義務があります。

この報告義務は、理事会の開催回数を制約し、理事会の監督機能や監査機能を強化するために重要となりますが、実務的には、理事会の開催回数を制約するという意味で重要な規定となります。

特に公益法人においては、理事会の開催回数は、内閣府から確認されるため重要となります。公益法人を目指す場合は、定款の規定を再度確認し、無理のない法人運営が可能な体制の構築が望まれます。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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