【公益法人が適用すべき会計基準】

公益法人,会計基準

公益法人には、特有の会計処理が多くあります。

また、非営利法人向けの多数の会計基準が存在しています。

そもそも、どの会計基準を適用すれば良いのか分からず、以下のような悩みを抱えている方からの相談を多く受けます。

  • 新しく非営利団体を設立したが、会計基準は企業会計と同様で良いのか?
  • 公益法人を目指したいが、会計処理はどうすれば良いのか?
  • 学校のPTA活動をしているが、公益法人会計基準を適用しないといけないのか?

そこで、本ブログでは、公益法人などの非営利団体が適用すべき会計基準について解説します。

本ブログの対象となる法人形態は、「公益社団法人」、「公益財団法人」、「一般社団法人」、「一般財団法人」、「社会福祉法人」、「任意団体(人格なき社団)」とし、これらを総称して「非営利団体」とします。

また、「公益社団法人」と「公益財団法人」のことを「公益法人」とし、「一般社団法人」と「一般財団法人」のことを「一般社団法人等」と表記し、説明を行います。

まず、非営利団体が適用する会計基準について説明します。

非営利団体が適用する会計基準として一般的な基準は、以下のとおりです。

公益法人会計基準(平成20年基準)

公益法人制度改革が2008年に行われました。当該制度改革と同時に制定された公益法人向けの会計基準が公益法人会計基準(平成20年基準)となります。

以前にも公益法人会計基準はありましたが、制度改正により会計基準も大きく変更となったため、以前の公益法人会計基準とは区別するため、「平成20年基準」や「20年基準」と言われることもあります。

公益法人会計基準(平成20年基準)は、制度改正に合わせる形で作成された基準であるため、現行の公益法人制度との親和性が高いという特徴を有しています。

公益法人会計基準(平成16年基準)

前項で説明した公益法人会計基準の改訂前の会計基準となります。

公益法人制度改革前の基準ですが、比較的利用しやすい基準であるため、現状でも引き続き継続適用している非営利団体も多くあります。

現行の公益法人制度との親和性は低いものの、以下のようなメリットがあるため、現状の環境でも使用されることが多いものと推測されます。

  • 法人税の申告書との親和性が高い
  • 補助金の利用結果を報告する際の資料作成が容易になる

NPO法人会計基準

NPO法人会計基準は、その名称のとおり、特定非営利活動法人(以下、「NPO法人」)のための会計基準となります。

よく誤解がありますが、当該会計基準は、市民がボランティで作成した基準となっており、会計士協会などが定めた基準ではありません。

そのため、専門家が当該会計基準を見ると、「NPO法人会計基準の処理は適切な処理なのか?」と考えてしまう記載もあります。

しかし、一部の行政庁は、NPO法人会計基準をNPO法人に適用するように指導しているため、会計基準として正しいかは別として、実務として定着している基準となります。

NPO法人会計基準は、「理論的な正しさ」よりも、「理解しやすさ」を重視しているため、利害関係者への説明を重視するという観点では有用な会計基準と言えます。

社会福祉法人会計基準

社会福祉法人会計基準は、「社会福祉法人」に強制適用される会計基準となります。

ただし、当該会計基準は、他の法人形態の法人も適用することが可能です。

特に、認可保育所を運営している場合、法人形態に関係なく、社会福祉法人会計基準で作成した保育所の決算書の提出を行政や市区町村から求められることが多々あります。

これは、社会福祉法人会計基準は、国等が法人を指導・監督するという立場から理解しやすい会計基準となっているためと考えられます。

しかし、当該基準の内容は、非常に複雑であり、一般の方々には理解も困難な会計基準となっています。

法令又は行政の指示・指導に基づいて適用する会計基準であり、それ以外の場合に適用するメリットはあまりありません。

企業会計原則・税法基準

企業会計原則及び税法基準は、多くの株式会社等で適用されている会計基準となります。

あるべき企業会計原則を適用しているのは、上場企業などの公認会計士による会計監査を受けている企業であり、一般的な企業は、税法基準により税法上問題にならないような処理を行っているケースが多いと考えます。

企業会計原則及び税法基準は、簿記などで学ぶことができ、かつ一般化されているため、多くの人に理解しやすいというメリットがあります。

ただし、企業会計原則及び税法基準は、非営利団体の税務申告という点では、特別な設定を行わないと申告が困難であるというデメリットもあります。

その他独自基準

上記のように各会計基準について説明をしてきましたが、非営利団体の場合、各会計基準を独自にカスタマイズして使用しているケースも多々あります。

例えば、公益法人会計基準(平成16年基準)をベースとして、運営上、必要性の乏しい書類の作成は行わないなどのケースや、現預金の入出金だけ記録し決算書を作成するケースなどがあります。

非営利団体に適用可能な会計基準が複数あることを説明してきましたが、では、どのような観点から会計基準を選択すればよいのか、その判断基準を説明します。

会計基準選択の判断基準として以下の3つが想定されます。

  • 法令
  • 実務慣行
  • 業務の効率性
  • 説明責任

以下、判断のポイントについて説明を行います。

法令

まずは、会計基準の選択の判断基準として関係法令に適用すべき会計基準について明記されている場合です。

例えば、上場企業は、金融商品取引法により企業会計原則の適用が強制されます。また、社会福祉法人の場合は、社会福祉法により社会福祉法人会計基準の適用が強制されます。このような法令の定めにより適用が強制される場合には、会計基準の選択の余地はありません。

実務慣行

次に、実務慣行がある場合の会計基準の選択の考え方を説明します。

実務慣行と記載しましたが、具体的には非営利団体の管轄の行政庁等からの指導に基づき特定の会計基準の適用が指導されるケースがあります。この場合は、法令で強制されるわけではありませんが、実質的に特定の会計基準が強制されることになります。

すべての行政庁の指導により強制されるわけではありませんが、例えば、公益法人は公益法人会計基準の適用を指導されます。また、NPO法人は、NPO法人会計基準の適用を指導されることが多くあります。

このような法人の場合も実質的に適用すべき会計基準の選択の余地はないと言えます。

業務の効率性

さらに、業務の効率性の観点から会計基準の選択についての考え方について説明します。

例えば、法人税の申告書を作成する観点で考えます。

一般社団法人等は、法人税法上の取り扱いが大きく以下の2種類に分類されます。

  • 非営利型の一般社団法人等
  • 上記以外の一般社団法人等

非営利型の一般社団法人等

まず、非営利型の一般社団法人等を呼ばれる形態について説明します。

非営利型の一般社団法人等は、法人税において特殊な取り扱いが求められます。

具体的には、すべての収益と費用に対して課税されるのではなく、税務上の収益事業とされる事業にのみ課税されます。

ここで、「非営利型の一般社団法人等の要件」や「税務上の収益事業」については、以下のブログで詳細解説を行っています。ぜひ、参考にしてください。

【公益法人の税務】非営利型の一般社団法人等の解説!

非営利型の一般社団法人等の場合は、税務上の収益事業を分離管理する必要があるため、公益法人会計基準を適用すると法人税申告書作成が容易になります。

非営利型以外の一般社団法人等

次に、非営利型の一般社団法人等以外の一般社団法人等について説明します。

非営利型の一般社団法人等以外の一般社団法人等は、通常の株式会社と同様に法人税の申告を行う必要があります。

そのため、上記の場合、法人税申告という観点では、公益法人会計基準を適用するメリットはあまりないため、企業会計原則・税法基準で処理を行うことが効率的です。

法人税の観点から業務の効率性を説明しましたが、以下のようなケースもあります。

例えば、保育所を運営している法人の場合、社会福祉法人会計基準で作成した保育所の決算書を行政や市区町村に提出する必要があります。そのため、行政等への提出目的で一部社会福祉法人会計基準を適用することもあります。

説明責任

最後に、説明責任の観点から会計基準の選択についての考え方について説明します。

決算書は、多くの関係者が閲覧することが想定されます。

しかし、決算書を閲覧する関係者の会計に対する知識や経験は、個人差があります。

そのため、当該関係者が理解しやすいかどうかという点も会計基準選択の判断基準の1つとなり得ます。

例えば、社員や役員が企業経営者で構成されているいような団体であれば、企業会計原則や税法基準をベースに会計処理を行うことが普段見慣れた決算書となり理解が容易になる可能性があります。

また、学校のPTAなどの団体の経理が必要ということになった場合、分かりやすいNPO法人会計基準を適用するという選択肢もあります。さらに、税金などが生じないのであれば、お小遣い帳のように現金の収支だけ記載するような独自基準でも良いかもしれません。

以下、公益法人等が適用すべき会計基準とその判断基準を一覧にしました。

法令や実務慣行で会計基準の選択の余地がない場合以外のケースにおいては、自分たちの運営している法人の決算書の利用目的、効率性を考慮して、どのような会計基準を適用するか検討するようにしてください。

法人形態適用すべき会計基準
公益法人行政庁の指導に基づき公益法人会計基準を適用する。
非営利型の一般社団法人等業務の効率性や説明責任を考慮し、会計基準を選択する。
(例)
公益法人を目指す場合は、公益法人会計を適用する。
法人税申告を想定し、公益法人会計基準(16年基準)を適用する。
保育所を運営している場合は、一部に社会福祉法人会計基準を適用する。
営利型の一般社団法人等業務の効率性や説明責任を考慮し、会計基準を選択する。
(例)
法人税申告や理解しやすさを考慮し、企業会計原則・税法基準を適用する。
社会福祉法人法令の定めの従い、社会福祉法人会計基準を適用する。
NPO法人行政庁の指導に基づき、NPO法人会計基準を適用する。
任意団体業務の効率性や説明責任を考慮し、会計基準を選択する。
(例)
法人税申告を想定し、公益法人会計基準(16年基準)を適用する。
学校のPTAのような税務も影響しないような場合には、お小遣い帳のような勘弁な処理を行う。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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