【交通費の源泉徴収】講師編

交通費,源泉徴収

記事の対象者

本記事は、講師に対する源泉徴収に悩まれることが多い「一般社団法人」「一般財団法人」「公益社団法人」「公益財団法人」、その他任意団体の学会等の事務局業務に関与される方向けとなります。

なお、本記事内では、「一般社団法人」「一般財団法人」「公益社団法人」「公益財団法人」、その他任意団体の学会等を総称して「公益法人」を記載します。

記事の概要

公益法人の税務については、法令や書籍を読んだだけでは、理解できない実務的な論点が多数あります。

本ブログでは、公益法人の税務のうち、誤りが多い典型論点である「講師に対する交通費の源泉徴収」について取り上げます。

なお、本ブログでは、講師に対する交通費を前提に説明を行います。同様の論点で「委員に対する交通費」に対する源泉徴収の話もありますが、そちら以下のブログに記事を投稿しています。こちらも参考にしてください。

記事の内容追加情報

2024年10月
源泉徴収不要な交通費について税務通信の記事を参考に内容を加筆しています。

公益法人は、個人の方に原稿料や講演料を支払うことが多くあります。

そして、このような個人に報酬の支払いを行う場合は、源泉所得税を源泉徴収の有無を検討する必要があります。

源泉徴収が必要となる報酬は、限定的に定められていますが、公益法人が注意すべき報酬としては、「原稿料」「講演料」「公認会計士、税理士などへの報酬」があります。

これらの報酬を支払う際、公益法人は、所定の税額を控除し、その税額を税務署に納付する義務があります。

報酬を受け取る側の個人は、源泉徴収税を控除された後の金額を受け取りますが、当該個人の最終的な税額は確定申告時に調整されます。

このように支払者である公益法人が支払時に先に税金を徴収し、支払いを受けた個人に変わり税金を税務署に納税する制度を源泉徴収制度と言います。

個人で支払いを受ける報酬については、確定申告時に申告が漏れる可能性があります。源泉徴収制度は、先に所定の税金を個人から徴収することにより、個人の申告漏れ等の問題を回避し、適正な納税制度を維持することを目的としています。

まず、公益法人の税務で最も誤解が多い源泉徴収の対象について解説します。

源泉徴収は、公益法人が個人に支払った金額のうち「報酬」についてのみ行うという誤解です。

具体例で考えてみましょう。

誤った源泉徴収の考え方

例えば、公益法人が講師を依頼し、報酬と講演場所までの実費の交通費を支払った場合を想定します。

「講師に対し報酬として5万円、交通費として1万円(実費)を支払いました。この場合、源泉徴収はいくら行えば良いでしょうか?」

ここでよくある間違いは、報酬の5万円についてのみ源泉徴収を行うというものです。

しかし、税法では、個人に支払う交通費についても報酬に含まれると考えます。

これは、交通費が実費だとして考えは同じです。

そのため、例題の講師への支払いでは、報酬として5万円、旅費・交通費として1万円を支払った場合、5万円にのみ10.21%の源泉徴収を行うのではなく、総額の6万円に対して10.21%の源泉徴収を行う必要があります。

交通費の税務上の考え方

「実費の交通費であれば源泉徴収は不要では?」

このような質問をよく受けます。なぜ、このような誤解が生じるのか参考までに解説します。

当該誤解が生じる原因として、従業員に給料を支払う際に実費相当の交通費については、源泉所得税が徴収されないことと混同されている公益法人が多いことが考えられます。

給料などの給与所得に対して実費相当の交通費に源泉徴収が行われないのは、「非課税交通費」として税法において特例により非課税としているためです。

つまり、税法の前提としては、交通費は課税対象、すなわち所得であり、例外的に給与所得に対する交通費だけ非課税として扱われているという整理になります。

なお、参考となりますが、社会保険料の計算対象に交通費が含まれることも、交通費が「所得」であるという考え方に基づきます。

前項までの解説では、公益法人が講師に交通費を支払う場合は、交通費からも源泉徴収を行うことを説明しました。

ただし、一部例外もあります。

それは、公益法人が直接交通機関やホテル等に直接支払う旅費・交通費については、源泉徴収が不要となるということです。

具体的には、公益法人が航空券や宿泊費を直接手配・支払う場合がこれに該当します。

追加情報

上記以外の例外として税務通信3626号(2020年10月19日)に講師の交通費の源泉が不要なケースの事例が紹介されていましたので、参考情報として解説します。

税務通信では、講師が交通費を支払った際に公益法人宛ての領収書に基づき公益法人から交通費の精算を受ける場合は、当該交通費について源泉徴収は不要とされています。

これは、公益法人宛の領収書で交通費を精算することは、「公益法人が直接交通機関やホテル等に直接支払う旅費・交通費」と同視できるためと解説されています。

なお、上記の趣旨よりタクシーや高速道路の利用時などに入手することができる「宛名のない領収書」については、「公益法人が直接交通機関やホテル等に直接支払う旅費・交通費」と同視できないため源泉徴収が必要であるとされています。

初めて公益法人に対する税務調査が行われる場合、必ず源泉徴収の調査を行われると考えてください。

そして、報酬に対する交通費の源泉徴収漏れは、特に注意が必要となります。

公益法人が報酬の支払いにあたり、交通費の源泉徴収を行っていなかった場合、徴収漏れとなっている源泉徴収税額を算定し、公益法人が納税を行うことになります。

当該納税は、実際に支払先の個人から徴収できるか関係なく、公益法人が先に納税する必要があります。これは、源泉徴収することは、報酬を支払う法人にとって「義務」となっているためです。

そして、公益法人が納税した後に、公益法人は当該納税額の報酬を支払った個人から徴収を行います。

そのうえで、当該個人は、確定申告の修正を行い、源泉徴収税に対する申告を行い還付等を受けることになります。

NO手続き
手順1源泉徴収漏れを把握
手順2過去の徴収漏れの金額を算出
手順3公益法人が徴収漏れの源泉税額を税務署に納税
手順4公益法人が納税した税額を支払先の個人から徴収
手順5個人は、源泉徴収された年度の確定申告を修正

前項までの、源泉徴収漏れが生じた場合の手続きについて、公益法人の実務において、税務処理に問題が生じることがあります。

それは、公益法人が講師などを依頼する個人の方は、著名な方などが多く、今更、数年前の源泉徴収を支払ってほしいなどお願いできないというケースが多くあります。

そのため、当該納税した源泉徴収税額を支払先の個人から徴収せず、公益法人が負担するということがあります。

それは、公益法人が負担するとした源泉徴収も「報酬」という扱いになるためです。

そのため、公益法人が負担する税額分の報酬が増加→その報酬に対する税額発生→その増額した税額も報酬となるため税額発生→その増額した税額も報酬となるため税額が発生・・・という繰り返し計算が発生します。

上記のような計算を簡単に行うため、公益法人が支払先の源泉徴収税を負担する場合には、グロスアップ計算という計算方法により源泉徴収税額を計算する必要があります。

グロスアップ計算例

通常のケース

仮に報酬5万円、交通費1万円、源泉徴収税率10.21%とした場合、通常の源泉徴収税額は、以下のようになります。

(50,000円+10,000円)× 10.21% = 6,126円

グロスアップのケース

一方、源泉徴収が漏れており、源泉所得税を公益法人が負担するとした場合、源泉徴収税額は、以下のようになります。

(50,000円+10,000円)÷(1-10.21%)× 10.21% =6,822円

上記の事例の(1-10.21%)で割り返し計算をしている箇所がグロスアップ計算の特徴となります。当然ですが、報酬が増えるため、通常より源泉徴収税が増加しています。

このように公益法人が支払い先の個人の源泉徴収税を負担する場合は、税負担が想定よりも多額になる可能性があるため、注意が必要となります。

公益法人が源泉徴収を負担した場合、当該負担した金額を報酬と同様の勘定科目で処理することなります。

例えば、「支払報酬料」の科目で個人への報酬を支払っている場合は、負担した源泉徴収も報酬として納税時に「支払報酬料」の科目で処理を行います。

もちろん、どのような勘定科目を使用するかは、公益法人の自由となりますので、公益法人や決算書を利用する関係者が理解しやすい勘定科目を使用することを優先すべきと考えます。

公益法人の源泉徴収漏れで特に多いのは、講師へ実費交通費を支払った際の源泉徴収漏れとなります。

数年にわたり徴収漏れが継続すると金額も多額になるケースもあるため、源泉徴収漏れには注意が必要となります。

なお、今回は、講師の実費交通費について取り扱いましたが、公益法人でよくある「委員の交通費」については、考え方が異なります。委員に対する交通費の考え方については、関連記事の【公益法人の委員に対する源泉徴収】を参考にしてください。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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