【公益法人の会計基準の改正方針解説】

公益法人,会計基準

記事の対象者

本記事は、「公益社団法人」及び「公益財団法人」の事務局や理事、監事等の決算書作成に関与されている方を対象としています。

なお、本記事中は、「公益社団法人」及び「公益財団法人」を総称して「公益法人」と記載することにします。

記事の概要

本記事は、改正が予定されている公益法人の会計基準について現行の基準と比較しながら、移行にあたりどのような対応が必要となるか私見を交えて解説を行っています。

ただし、詳細な会計処理に関する事項(例えば、6号財産の果実の取り扱いなど)の説明は省略し、決算書等の開示に関する事項を中心に説明しています。

なお、本記事の内容は、内閣府公益認定等委員会より令和6年5月24日に公表されている「令和5年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」に基づいて作成しています。

公益法人の会計基準の改正に関する新しい情報が更新され次第、こちらの記事の内容も更新を予定しております。

公益法人の会計基準の改正点

2024年5月時点において示されている新しい公益法人の会計基準の改正方針としては、既存の貸借対照表、正味財産増減計算書、財務諸表に対する注記、附属明細書、財産目録の全般に渡って変更が予定されています。

そのため、本記事では、各項目に区分し、開示に関する変更箇所中心に説明を行います。

まず、貸借対照表の改正方針について説明を行います。

貸借対照表では、「資産区分」「純資産区分」「貸借対照表内訳表」という3点が大きな変更となります。

資産区分の変更

現行の公益法人の会計基準では、固定資産を「基本財産」「特定資産」「その他固定資産」と区分していましたが、企業会計と同様に「有形固定資産」「無形固定資産」「その他固定資産」に変更になります。

そのため、現行制度では、固定資産の中に普通預金等が含まれることがありますが、新制度では、当該普通預金等は、流動資産に計上されることになります。

なお、「基本財産」「特定資産」という概念は、継続する予定であり、当該情報は、注記で開示することになります。

現行の公益法人の会計基準の固定資産科目とは科目の性質が変更となるため、会計ソフトの設定の見直しを行う必要があると想定されます。

また、基本財産、特定資産の概念は継続するため、会計ソフトの各勘定科目、または補助科目に基本財産や特定資産であることが把握できるような設定が必要になるものと想定されます。

純資産の区分の変更

現行の公益法人の会計基準では、純資産を資金等の提供者の使途の拘束の有無により「指定正味財産」と「一般正味財産」に区分していました。

当該指定正味財産と一般正味財産という区分は、新しい公益法人の会計基準でも継続され、名称のみが「指定純資産」「一般純資産」と変更になります。

貸借対照表内訳表の変更

現行の公益法人の会計基準では、収益事業等会計から利益の50%超を繰り入れる場合など一定の公益法人については、貸借対照表内訳表の作成が義務付けられています。

一方、新しい公益法人の会計基準では、貸借対照表内訳表は廃止され、注記情報として開示される予定です。また、当該注記は、すべての公益法人が開示することになります。ただし、開示内容は、現行の貸借対照表内訳表より簡易になると想定されます。

貸借対照表の変更イメージ

公益法人,貸借対照表

活動計算書への名称変更

現行の公益法人の会計基準での「正味財産増減計算書」は、「活動計算書」に名称が変更となります。

一般正味財産増減の部、指定正味財産増減の部の変

現行の公益法人の会計基準の「正味財産増減計算書」では、「一般正味財産増減の部」と「指定正味財産増減の部」を区分し、財源別に増減内容を把握していました。

そのうえで、使途の定めのある財産を使用した際に「指定正味財産増減の部」から「一般正味財産増減の部」に振替を行うという処理が行われています。

一方、新しい会計基準では、活動計算書での財源別の区分を廃止し、財源別の区分は、注記により開示することとなります。また、現行の「指定正味財産増減の部」から「一般正味財産増減の部」からの振替処理も廃止となります。

活動計算書での財源別の区分については、廃止されますが、注記で開示することになるため、現行の会計基準での処理同様に使途の定めのある財産の増減は、区分して仕訳処理を行う必要があります。

費用科目の表示変更

現行の公益法人の会計基準では、「事業費」「管理費」と大科目で区分し、中科目として「役員報酬」「消耗品」など内容の分かる科目を表示しています。

一方、新しい会計基準では、「公1事業費」「公2事業費」「収益事業費」「管理費」等の活動別の分類のみが表示されることになります。

なお、従前の「役員報酬」「消耗品」等の中科目に相当する内容は、注記により開示されます。

活動計算書では、「公1事業費」「公2事業費」「収益事業費」「管理費」等の活動別の分類のみが表示されますが、注記で「役員報酬」「消耗品」等の中科目に相当する内容を開示する必要があります。また、税務申告がある法人の場合は、現行の中科目と同様の科目処理をしておかないと申告に必要な情報を別途集計する必要が生じます。そのため、日常の仕訳処理は、現行と同様の処理を継続する必要があります。

正味財産増減計算書内訳表の変更

現行の公益法人の会計基準で開示している「正味財産増減計算書内訳表」は廃止となり、同様の情報を注記により開示することになります。

現行の公益法人の会計基準の「正味財産増減計算書内訳表」は廃止されますが、注記により同様の情報を開示することになること、及び収支相償の検討では、事業別の収支の把握が必要となるため、日常の会計処理としては、現行の会計基準と同様の仕訳を継続する必要があります。

活動計算書の変更イメージ

公益法人,活動計算書

貸借対照表の内訳情報

現行の公益法人の会計基準の「貸借対照表内訳表」に相当する情報を「貸借対照表の会計区分別の内訳」として注記することになります。

詳細の科目別ではなく、流動資産額、固定資産額、流動負債額、固定負債額、純資産額の記載が想定されています。

現行の公益法人会計基準において、貸借対照表内訳表を作成していた公益法人については、貸借対照表内訳表の情報を注記として開示するのみであるため、日常処理への影響はあまりないと思われます。ただし、会計ソフトのアップデートに伴い貸借対照表内訳表で設定した情報が注記で出力できるようにするなどの対応が必要になると想定されます。

一方、現行の基準において貸借対照表内訳表を作成していない公益法人については、単純に開示情報が増えることとなりますので、貸借対照表内訳表を開示するための仕訳ルールの見直し、または注記情報を集計するための運営ルールの見直しなどが必要となります。

公益法人,会計区分別内訳(BS)

資産及び負債の状況

現行の公益法人の会計基準にある「財産目録」と同様の内容が注記として開示されることが想定されています。

当該注記の中で「使途拘束資産」「基本財産」「特定資産」に関する情報も開示されることになります。

公益法人,資産及び負債の状況

使途拘束資産の内訳と増減額及び残高

新しい公益法人の会計基準では、貸借対照表において「基本財産」「特定資産」という表示が廃止され、普通預金等の財産は、流動資産に計上されることになりました。そのため、どの財産が控除対象資産や外部の資金提供者からの使途の定めのある資産であるか貸借対照表では把握できないため、注記により必要な情報を開示することになります。

使途拘束資産の内訳と増減額及び残高

財源区分別内訳情報

現行の公益法人の会計基準では、正味財産増減計算書で一般正味財産増減の部、指定正味財産増減の部として財源別に区分していましたが、当該財源別の内訳を注記により開示を行います。

財源区分別内訳

一般純資産の会計・事業区分別内訳

現行の公益法人の会計基準の「正味財産増減計算書内訳表」に相当する情報の注記を行います。ただし、科目については、詳細の表示を行わず、また、一般純資産(現行の「一般正味財産」)のみの開示となります。

会計事業区分別内訳(PL)

指定純資産の内訳

現行の公益法人の会計基準では、指定正味財産の増減や残高の内訳は、「補助金等の内訳並びに交付者、当期の増減額及び残高」として補助金等のみが注記として開示されていましたが、新しい会計基準では、指定純資産のすべてについて内訳、交付者、当期の増減額、残高を開示することになります。

指定純資産の内訳

控除対象財産(6号財産)の発生年度別残高及び使途目的計画

使途の定めがある資金等について、今後の使用計画について記載することになります。

現行の公益法人の会計基準では、決算書だけでなく、定期提出書類等の関連書類のどこにも開示・作成されていない注記内容となるため、当該情報の把握・決定方法について新たに公益法人内でルールを設ける必要があると想定されます。

控除対象財産の発生年度別残高

事業費・管理費の形態別区分

新しい公益法人の会計基準では、活動計算書において「公1事業費」「公2事業費」「収益事業費」「管理費」等の活動別の分類のみが表示されるため、詳細な形態別科目の内容については、注記で表示されます。ここでの開示は、指定純資産の部についても想定されているため、現行の会計処理と異なり、指定純資産についても日常の仕訳処理は、形態別科目での把握が必要となります。

なお、当該注記は、定期提出書類の別表F、別表Gの代替という性格も有しているため、配賦基準の開示も必要となる予定です。

事業費管理費,形態別区分

以下の内容についても注記として開示することが予定されています。

詳細については、検討中となっています。

  • 中期的収支均衡に関する情報(定期提出書類の別表Aの代替)
  • 公益充実資金に関する情報
  • 公益目的事業比率に関する情報(定期提出書類の別表Bの代替)
  • 使途不特定財産(現行の遊休財産)規制に関する情報(定期提出書類の別表Cの代替)
  • 公益目的事業継続予備財産に関する情報

使途拘束資産(控除対象財産)の明細

現行の定期提出書類別表C2に記載している控除対象財産の内訳と同様の内容を開示することになります。

金融資産と事物資産を区分し、1号財産から6号財産までを区分することになります。

使途拘束資産,附属明細

中期的均衡の内訳明細

現行の定期提出書類別表Aと同様の内容を開示することが想定されていますが、詳細は検討中となっています。

法令により財産目録の作成義務についての定めがありますが、財産目録の情報は注記により開示することが予定されています。そのため、財産目録の記載内容は、今後整理される予定です。

本記事では、公益法人の会計基準の改正案について開示を中心に説明を行いました。

新会計基準に移行にあたり現行の会計基準との比較、想定される移行方針について私見を踏まえ解説をしています。

まだ、新会計基準で明確になっていない点も多数存在しています。

今後の方針が公表され次第、本記事の内容も順次更新していく予定です。

なお、本記事では、記載していませんが、公益法人内のシステムにも影響を及ぼすと想定されます。システム面での移行方針等も順次ご検討ください。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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