【出版業】学会誌と法人税の課税関係

出版業

記事の対象者

本記事は、「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」の事務局の方や税務申告に関与される方向けの記事となります。

記事の概要

本記事では、学術団体(以下、「学会」とします。)が発行する出版物を販売した場合の法人税の課税関係(出版業)について解説します。

また、出版物に掲載する広告に関する代金の取り扱いなど出版物に付随して得られる収益に対する課税関係についても説明しています。

なお、学会の出版物としては、学会誌、和文誌、英文誌、論文集、抄録集など各種存在しますが、本記事内では、これらの学会が発行する出版物を総称して「学会誌」と記載します。

法人税における収益事業課税とは

学会誌と法人税の関係を解説するにあたり、前提知識として学会を運営している法人がどのように法人税が課税されるのかを解説する必要があります。

そこで、まずは、学会に関係する収益事業課税について解説を行います。

まず、学会は、一般的に以下の法人形態のいずれかで運営がされています。

なお、以下のような法人形態を総称して本記事内では、「公益法人」と記載します。

  • 公益社団法人
  • 非営利型の一般社団法人
  • NPO法人
  • 人格なき社団・任意団体

これらの法人形態の場合、法人税を収益事業課税という通常の株式会社とは異なる課税方式により法人税額の計算が行われます。

ここで、収益事業課税の場合、法人税法の34種の法人税で定める収益事業に対してのみ課税されることになります。

具体的には、学会が34種の収益事業を実施した場合、当該事業に対する収益と費用を抽出し、利益を計算し、当該利益に対して税金計算を行います。

このように収益事業課税は、法人全体の利益を法人税の計算対象とする株式会社とは異なる計算方法となります。

なお、株式会社などの法人税の計算体系と公益法人の法人税の計算体系の詳細な説明は、以下の記事に記載していますので、こちらも参考にしてください。

【非営利型の一般社団法人とは】

法人税法上の34種の収益事業

では、どのような事業が法人税の収益事業に該当するか以下に列挙します。

物品販売業不動産販売業金銭貸付業物品貸付業不動産貸付業
製造業通信業運送業倉庫業請負業
印刷業出版業写真業席貸業旅館業
料理店業その他の飲食店業周旋業代理業仲立業問屋業
鉱業土石採取業浴場業理容業美容業
興行業遊技所業遊覧所業医療保健業技芸教授業
駐車場業信用保証業無体財産権の提供等業労働者派遣業

ここで、学会が注意すべき税務上の収益事業は、物品販売業、請負業、出版業、席貸業、技芸教授業、無体財産権の提供等業となります。

なお、今回の記事のテーマである学会誌は、これらの事業のうち出版業として検討を行う事業となります。

以下、税務上の収益事業である出版業と学会誌の発行の関係性について解説します。

出版業とは

まず、法人税法における出版業の解説を行います。

出版業とは、有料または有償で行われる出版物の制作・頒布にかかる事業をいいます。

公益法人が、学会誌などの出版物を印刷し販売している場合には、原則として収益事業課税の対象となります。

ただし、出版物を制作し配布していたとしても、無料であれば収益事業には該当しません。

なお、形式的に無料であっても実質的に代金を徴収していることがあります。

例えば、購読会員として会費名目で金銭を受領しているが、実質的に当該会費が出版物の対価であると考えられる場合は、出版業に該当し、収益事業課税の対象となります。

収益事業から除外される出版業

公益社団法人である学会が、公益目的事業として学会誌の出版を行っている場合は、当該学会誌に関する収益は、収益事業課税から除外されます。

また、公益社団法人以外の非営利型の一般社団法人、NPO法人、人格なき社団・任意団体である学会が発行する学会誌が出版業に該当する取引は、原則として収益事業課税の対象となります。

しかし、法人税法に定める「特定資格会員向けの会報等」、「学術、慈善等の会報」に該当する場合は、収益事業から除外されることになります。

以下、上記の2つの要件について解説を行います。

特定資格会員向けの会報等

最初に、出版業から除外できる「特定資格会員向けの会報等」について解説します。

「特定資格会員向けの会報等」とは、特定の資格を有する者を会員とする法人がその会報その他これに準ずる出版物を主として会員に配布するために行う出版業のことであり、当該行為は、収益事業から除外されます。

ここで、上記要件のうち「特定の資格」「会報に準ずる出版物」「主として会員に配布」の内容の解説を行います。

「特定の資格」とは

まず、「特定の資格」について解説します。

ここで、「特定の資格」とは、「特別に定められた法律上の資格」、「特定の過去の経歴からする資格」その他これらに準ずる資格をいうとされています。

例えば、「特別に定められた法律上の資格」とは、医師、弁護士、会計士等の有資格者のことをいい、「特定の過去の経歴からする資格」とは、出身地、出身校、勤務先等の経歴に由来する者をいいます。

「会報に準ずる出版物」とは

次に、「会報に準ずる出版物」について解説します。

ここで、「会報に準ずる出版物」とは、主に会員が必要とする特殊な記事を内容とする出版物をいいます。そのため、通常の商品として書店や通販サイトなどで一般購入できるような出版物は、会員以外も必要とする記事であるため「会報に準ずる出版物」に該当しません。

「主として会員に配布」とは

最後に、「主として会員に配布」について解説します。

ここで、「主として会員に配布」とは、会報その他これに準ずる出版物を会員に配布することを目的として出版し、発行部数の8割程度を会員に配布していることをいいます。

なお、会員でない者でその会に特別の関係を有する者に対して対価を受けないで配布した部数は、会員に配布してものとして取り扱います。

学術、慈善等の会報

次に、出版業から除外できる「学術、慈善等の会報」について解説します。

学術、慈善その他公益を目的とする法人が、その目的を達成するための会報をもっぱらその会員に配布するために行う出版業は、収益事業から除外されます。

「もっぱら会員に配布」とは

学術、慈善等の会報の要件に「もっぱら会員に配布」とあります。

こちらは、「特定資格会員向けの会報等」の要件である「主として会員に配布」とは、内容が異なり、会員だけに配布することをいうとされています。

なお、「主として会員に配布」と同様に、会員でない者でその会に特別の関係を有する者に対して対価を受けないで配布した部数は、会員に配布してものとして取り扱います。

出版業と類似する事業との関係

ここで、収益事業課税における事業の判定で注意しなければいけない留意点を解説します。

それは、34種の収益事業の検討にあたり、本来は出版業として判定すべきでない事業を誤って出版業として判定してしまうということです。

例えば、以下のような事例が想定されます。

注意事例

類似事業注意点
印刷業出版物を印刷するだけであれば、印刷業として検討を行います。
物品販売業出版物を出版元から仕入れを行い、販売する行為は、物品販売業として検討を行います。
請負業出版物の編集や監修等を業務委託により行う行為は、請負業として検討を行います。

事業判定誤りに留意事項

上記について、収益事業の事業の種類の判定を間違ったとしても収益事業課税の対象になることに変わりはないため問題はないのでは?という誤解があります。

もし、事業の判定を間違ってしまうと、その事業の特有の除外規定の判定も間違うことになります。

例えば、出版業において「特定資格会員向けの会報等」、「学術、慈善等の会報」に該当する場合は、収益事業から除外される旨の解説を行いましたが、他の事業には、このような除外規定はありません。

そのため、出版業と誤って判定を行い、「特定資格会員向けの会報等」や「学術、慈善等の会報」という除外規定を適用し、収益事業課税の対象から除外したが、実は請負業であったため、収益事業課税の対象に含めるべきであったということもあります。

上記のように、法人税法上の収益事業を判定する場合は、該当する事業のみを把握するだけでは不十分であり、他の収益事業についても理解を深め、他の収益事業に該当しないかも判断が必要ということになります。

学会誌の収益事業の判定

では、学会が発行する学会誌が出版業に該当するのか検討を行います。

出版物として学会誌を発行し、一部を販売している場合、原則として出版業に該当します。

ただし、多くの学会では、「特定資格会員向けの会報等」や「学術、慈善等の会報」のいずれかの要件に該当するケースが多くあり、出版業から除外し、収益事業課税の対象としていない学会が多いと想定されます。

もちろん、通常の書店や通販サイトなどで一般販売を行っているような学会誌や会員等以外に2割を超えて販売を行ってるような学会誌は、除外規定の要件を満たさない可能性が高いため、収益事業課税の対象となる可能性が高く、慎重な判断が必要となります。

学会誌に広告等を掲載する場合の取り扱い

最後に、学会誌に広告等を掲載し、広告料を別途企業等から得ている場合の当該広告代金の判定について解説します。

収益事業課税には、付随行為という概念があり、その性質上その事業に付随して行われる行為も収益事業に含まれるものとして取り扱います。

そのため、学会誌に掲載する広告等は、出版業の付随行為として収益事業課税の対象となります。

なお、当該学会誌が「特定資格会員向けの会報等」、「学術、慈善等の会報」に該当する場合は、収益事業から除外されるため、付随行為である広告に関する代金も収益事業から除外されることになります。

本記事では、学会誌という観点から出版業について解説を行いました。

出版業に該当する場合であっても収益事業課税から除外されるための要件や出版物に付随する広告代金の取り扱いなどについても解説をしています。

なお、出版業は、収益事業から除外される要件である「特定資格会員向けの会報等」、「学術、慈善等の会報」の内容や付随行為の範囲などは、非常に抽象的な概念であり、実務における判断に悩まれることが多いと想定されます。

このように、出版業に該当する学会誌の収益事業課税の対象となるか否かの判断は、非常に判断が難しい分野となっていまので、判断に悩まれた場合は、専門家に相談されることを推奨します。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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