公益法人が課税されない印紙税とは
記事の対象者
本記事は、「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」の事務局の方を対象とした記事となっています。
なお、本記事内では、「公益社団法人」「公益財団法人」を総称して「公益法人」と記載し、「一般社団法人」「一般財団法人」を総称して「一般社団法人等」と記載しています。
記事の概要
印紙税については、公認会計士や税理士などの専門家でも誤解が生じやすい税目となっています。
特に、公益法人や一般社団法人等の印紙税の取り扱いについては、間違いが生じやすくなっています。
本記事は、公益法人等の印紙税の取り扱いについて、誤解が生じやすい定款、領収書、契約書に着目して解説を行っています。
印紙税とは
まず、印紙税について概要を説明します。
ここで、印紙税は、契約書や定款、領収書などの文書に対して課税する税目となっています。
もちろん、すべての文書に対して課税されることはなく、課税される項目を課税物件表に記載された20種類に限定されています。
公益法人や一般社団法人等では、課税物件表に記載された20種類のうち以下の項目については、書類を作成することが多いため書類作成時に印紙税の有無を検討する必要があります。
契約書関係
号数 | 文章の種類 | 例示 |
---|---|---|
第1号 | 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶もしくは航空機または営業の譲渡に関する契約書 ※その他の第1号文書については記載を省略。 | 著作権等の取り扱いに関する書類 |
第2号 | 請負に関する契約書 | 業務委託契約書等 |
第7号 | 継続的取引の基本となる契約書 | 継続して行われる取引の基本条件等を定めた契約書で一定の条件を満たす書類 |
契約書以外
号数 | 文章の種類 | 例示 |
---|---|---|
第6号 | 定款 | ー |
第17号 | 金銭又は有価証券の受取書 | 領収書 |
判定上の注意
契約書などは、当事者間の合意に基づき自由な記載が可能です。
そのため、上記の課税対象となる文書となるか否かの判断は、その文書全体で評価するのではなく、個々の記載内容で判断を行い、課税物件表に記載された20種類の課税事項と判断される記載が含まれるのであれば、その文書は課税対象となります。
また、文書が課税対象となるかの判断は、文書の名称や呼称、形式的な記載文言により判断は行わず、実質的な内容により判断することになります。
そのため、書類の名称が協定書や覚書など、契約書という表記でない書類であったとしても、当事者間の間での契約を証明する目的で作成される場合には、契約書として取り扱われることになります。
非課税文書
印紙税法において、以下の項目を非課税文書として印紙税を非課税として取り扱っています。
- 契約金額が少額であるもの等、課税物件表の非課税物件の欄に掲げる文書
- 国、地方公共団体又は印紙税法別表第二に掲げる者が作成した文書
- 日銀や独立行政法人等の特定の者が作成する特定の文書
- 特別の法律により非課税とされる文書
上記より、印紙税では、課税物件表に記載された20種類の項目に該当した文書であり、非課税文書に該当しない文書を「課税文書」として課税対象としています。
以下、課税文書にうち、定款、領収書、契約書について公益法人や一般社団法人等で誤解の多い論点を解説します。
公益法人が作成する定款に対する印紙税
印紙税において課税対象となる定款は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社又は相互会社の設立のときに作成される定款の原本に限定されています。
そのため、公益法人及び一般社団法人等が作成する定款については、課税対象となりません。
公益法人が発行する領収書に印紙税
公益法人の場合
印紙税法において領収書であっても「営業に関しないもの」である場合は、非課税となります。
ここで、公益法人の行為は、すべて「営業」に該当しない旨が印紙税法に明記されています。
そのため、公益法人が作成する領収書は、収益事業に関するものであっても、営業に関しない書類として非課税となります。
一般社団法人等の場合
印紙税では、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社以外の法人のうち、法令の規定又は定款の定めにより利益金又は剰余金の配当又は分配をすることができないものは営業者に該当しないとしています。
そのため、非営利型の一般社団法人のうち完全非営利法人型の要件を満たす場合は、定款に剰余金の分配を行わないこととされているため、当該一般法人等が発行する領収書は、営業者に該当せず、非課税となります。
なお、非営利型の要件については、以下の記事に記載しています。こちらの記事も参考にしてください。
なお、上記以外の一般社団法人等の場合は、「利益金又は剰余金の配当又は分配をすることができない」という記載が定款に記載されている場合は、当該法人が発行する領収書は、非課税となります。
しかし、定款に当該記載がない場合、残余財産の帰属の取り扱いは、清算法人の社員総会又は評議員会の決議によって定めることになり、残余財産を社員又は設立者に帰属させることが可能となります。
そのため、定款に「利益金又は剰余金の配当又は分配をすることができない」旨の記載がない完全非営利型の要件を満たさない一般社団法人等については、要件を満たすことが出来ず、当該法人が発行する領収書は、非課税とならないと考えられます。
公益法人が作成する契約書に対する印紙税
第1号文書と第2号文書と印紙税
公益法人等が作成する著作権等の取り扱いに関する書類(第1号文書)や業務委託契約書(第2号文書)などは、印紙税が課税されます。
第1号文書と第2号文書の関係
契約書の形式等は、当事者間の自由に作成できるため、第1号文書と第2号文書が混在するような契約書も考えられます。
この場合、原則として第1号文書として取り扱うことになります。
ただし、第1号文書と第2号文書とに該当する文書で、その文書にそれぞれの契約金額が区分記載されており、第2号文書についての契約金額が第1号文書についての契約金額を超える場合は、第2号文書として取り扱われます。
第7号文書と印紙税
第7号文書は、継続的取引の基本となる契約書で、次に掲げる5要件すべてを満たす文書(契約期間が3ヶ月以内で、更新に関する定めのないものを除く。)が該当します。
しかし、「公益法人が発行する領収書」の項で説明しましたように公益法人や「利益金又は剰余金の配当又は分配をすることができない」旨を定款に定めた一般社団法人等は、営業者に該当しないため、第7号文書の要件を満たしません。
そのため、上記の法人の作成する契約書では、第7号文書に該当することはありません。
第7号文書の要件
- 営業者間の取引であること
- 売買、売買の委託、運送、運送の取り扱い又は請負の取引に関する契約書であること
- 2以上の取引を継続して行うための契約書であること
- 2以上の取引について共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうち1以上の事項を定める契約書であること
- 電気又はガスの供給に関する契約でないこと
第1号文書、第2号文書と第7号文書の関係
公益法人や一般社団法人等以外の株式会社等の法人の場合は、第1号文書又は第2号文書で契約金額の記載のないものと第7号文書との両方に該当する文書である場合には、第7号文書に該当することになります。
しかし、上記のような文書を公益法人や「利益金又は剰余金の配当又は分配をすることができない」旨を定款に定めた一般社団法人等が作成した場合は、そもそも第7号文書に該当しないことになります。
そのため、第1号文書又は第2号文書で契約金額の記載のないものとして判定することになります。
なお、第1号文書又は第2号文書で契約金額の記載のないものの印紙税は、200円となります。
まとめ
本記事では、公益法人及び一般社団法人等の印紙税について解説を行いました。
また、公益法人等で検討することの多い定款、領収書、契約書を中心に説明を行うとともに、公益法人等のうち印紙税が課税されない法人形態や取引についても解説しています。
さらに、公益法人等の契約書について誤解の多い第1号文書、第2号文書、第7号文書の分類方法についても詳述しています。
公益法人や一般社団法人等の印紙税の取扱については、実務上の誤解が多い分野となっています。非営利法人の印紙税の取扱については、文書の内容だけではなく、運営している公益法人等の法人形態や定款の記載内容も確認のうえ、印紙税の判断が必要となります。