【海外の講師に対する源泉税】

海外,源泉税

記事の対象者

本記事は、「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」で海外から講師を招き講演等の事業を行う法人の事務局の方向けの記事となります。

なお、本記事内では、「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」を総称して「公益法人」と記載します。

記事の概要

学術大会やセミナー、講演会を開催する公益法人は多数あり、その際に海外の大学教授や専門家等を講師として招き、講演をして頂くこともあります。

本記事では、海外から講師を招き講演等を行った場合に講師に支払う謝金や交通費などの源泉税の取り扱いについて解説を行います。

まず、源泉税の概要について解説します。

公益法人が特定の個人の方に業務を依頼し報酬等を支払う際には、当該報酬額から一定額を源泉税として控除して支払う必要があります。

そして、公益法人が控除した源泉税を公益法人自らが税務署に納付する必要があります。

このように支払者である公益法人が支払時に先に税金を徴収し、支払いを受けた個人に変わり税金を税務署に納税する制度を源泉徴収制度と言います。

個人で支払いを受ける報酬については、確定申告時に申告が漏れる可能性があります。

源泉徴収制度は、先に所定の税金を個人から徴収することにより、個人の申告漏れ等の問題を回避し、適正な納税制度を維持することを目的としています。

報酬を受け取る側の個人は、源泉徴収税を控除された後の金額を受け取りますが、当該個人の最終的な税額は確定申告時に調整されます。

国内に居住している講師に対する源泉税の取り扱い

次に、海外から講師を招いた場合の取り扱いの前に、国内に住所等を有している方に講師を依頼した場合(国内の大学の教授に講師を依頼する場合など)の源泉税の取り扱いについて検討します。

前項で解説した源泉税については、個人へに支払う報酬すべてについて必要ということはなく、特定の業務に対する報酬に対してのみ源泉徴収が必要となります。

ここで、公益法人が注意すべき報酬としては、「原稿料」「講演料」「公認会計士、税理士などへの報酬」があります。

これらの報酬を支払う際は、源泉税の徴収が必要となるため、国内に住所等を有している講師に対して謝金を支払う場合も源泉税の徴収が必要となります。

ここで、徴収すべき源泉税は、報酬の10.21%となります。

なお、講師に交通費を支払う場合は、交通費に対しても源泉税の徴収が必要となる場合もあるため、注意が必要となります。

国内に住所等を有している講師に対する謝金や交通費の源泉税の取り扱いは、以下の記事でも解説を行っていますので、参考にしてください。

ここからは、海外から講師を招いた場合の源泉税の考え方について解説します。

本記事にあるような海外から人を招き日本国内で業務を行い、対価として報酬を支払うような場合、招いた方が「非居住者」か「外国法人」であり、支払った報酬が「日本国内で稼得した国内源泉所得」である場合は、課税の対象となる可能性があります。

そのため、上記のようなケースの場合、支払先の個人が「非居住者」「外国法人」であるか、支払った報酬の内容が「国内源泉所得」に該当するか検討する必要があります。

日本の税法における非居住者の判定

まず、海外から招いた講師が「非居住者」であるか否かを判定する必要があります。

税法では、「居住者」と「非居住者」を以下のように定めています。

「居住者」とは

「居住者」とは、国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいいます。

「非居住者」とは

「非居住者」とは、「居住者」以外の個人としています。

上記より、国内に住所を有しないか、現在まで1年以上居所を有しない個人は、非居住者となるため、「住所」と「居所」の判定が重要となります。

以下、「住所」と「居所」について概要を解説しますが、「住所」と「居所」については、判定が困難な場合は、判例等を検討する必要があります。

そのため、本記事では、概要の解説のみ行います。

「住所」とは

まず、「住所」は、「個人の生活の本拠」をいい、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになるとされています。

そのため、「住所」は、その人の生活の中心がどこかで判定することになります。

「居所」とは

次に、「居所」は、「その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所」とされています。

参考:外国法人の判定

本記事では、個人への支払を想定しているため、外国法人の判定については、参考情報として解説します。

ここで、外国法人の判定は、登記や定款等の定めにより、本店または主たる事務所の所在地で判断することになります。

日本の税法における国内源泉所得の判定

前項までの非居住者の判定の結果、海外から講師を招き講演等を行った場合に講師に支払う謝金に対し、海外から招いた講師が「非居住者」であると判定された場合は、次に支払う報酬が「国内源泉所得」に該当するか判定を行います。

ここで、税法により国内源泉所得として明記されているものは、15種類あります。

そのうち、公益法人が注意すべきものとしては、「国内で行う人的役務の提供を事業とする者の、その人的役務の提供に係る対価」「給与、賞与、人的役務の提供に対する報酬のうち国内において行う勤務、人的役務の提供に基因するもの、公的年金、退職手当等のうち居住者期間に行った勤務等に基因するもの」があります。

したがって、国内での講演に対する講師への謝金は、人的役務の提供に対する報酬であり、国内において行う人的役務の提供に起因するものであるため、国内源泉所得に該当します。

日本の税法における海外の講師等への源泉税の判定結果

ここまでの判定により、海外から講師を招き講演等を行った場合に講師に支払う謝金が「非居住者」に対する「国内源泉所得」に該当する報酬であると確認された場合は、源泉徴収の有無を検討します。

ここで、「国内源泉所得」のうち「恒久的施設帰属所得、国内にある資産の運用または保有により生ずる所得、国内にある資産の譲渡により生ずる所得」「その他の国内源泉所得」以外は、源泉徴収の対象となっており、本記事の国内での講演に対する講師への謝金に対しては、源泉徴収が必要となります。

そして、徴収すべき源泉税は、報酬の20.42%となります。

なお、源泉徴収は、講演料だけでなく、航空料金や宿泊料のなどの旅費を含めた金額全体が源泉徴収の対象となります。

ただし、当該旅費が公益法人から航空会社やホテル等に直接支払いが行われ、かつ、その金額がその費用として通常必要であると認められる範囲内のものであるときは、当該旅費について、源泉徴収を行う必要はありません。

租税条約における海外の講師等への源泉税の判定

前項において、日本の税法における「非居住者」の判定、「国内源泉所得」の判定、「税率」について解説を行いました。

しかし、国内だけでなく、他の国が関係する場合、二重課税の問題が生じます。

例えば、本記事の講師謝金について日本の税法により源泉徴収され課税されているにも関わらず講師が住んでいる国でも課税されてしまう可能性があります。

そこで、上記のような二重課税を調整するため、日本とその非居住者等の居住地国との間で租税条約が締結されていることがあります。

このように租税条約が締結されている場合は、租税条約に従うことになるため、租税条約についても確認が必要となります。

なお、租税条約は、すべての国との間で締結しているわけではありません。

そのため、まず日本とその非居住者等の居住地国との間で租税条約が締結されていることを確認する必要があります。

ここで、租税条約の締結状況や内容については、財務省のWebページなどで確認することができます。

以下、租税条約が締結されている場合の確認事項について解説を行います。

租税条約の確認事項

「非居住者」の確認

まず、「非居住者」について租税条約に記載がないか確認を行います。

租税条約では、日本と異なる規定を置いている国との二重課税を防止するため、個人および法人がいずれの国の居住者になるかの判定方法を定めています。

個人については、以下の順番に判定を行い、どちらの国の「居住者」となるかを決めることが多くあります。

  • 恒久的住居の場所
  • 利害関係の中心がある場所
  • 常用の住居の場所
  • 国籍
国内源泉所得」の確認

租税条約によって国内源泉所得について異なる定めがある場合は、租税条約に従うことになります。

「税率」の確認

日本の税法では、源泉税の税率は20.42%となっていますが、租税条約により当該税率が免除、または軽減されることがあります。

税務署への提出書類等

租税条約に従い免除または軽減を受けようとする場合には、支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」等をその国内源泉所得の支払者である公益法人を経由してその公益法人の納税地の所轄税務署長に提出することになります。

なお、日米租税条約では、「特典条項に関する付表(様式17)」及び「居住者証明書」が必要となります。

これらの書類は、租税条約を締結する国ことに提出の有無が異なりまるため、講師の居住地国ごとに提出書類を都度確認する必要があります。

還付手続き

講演料の支払日の前日までに免税手続書類が揃わない場合は、日本の税法に従い20.42%の源泉税を徴収する必要があります。

ただし、後日「租税条約に関する届出書」、「特典条項に関する付表(様式17)」等とともに「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を、公益法人を通じて公益法人の所轄税務署長に提出することが可能です。

この場合は、軽減又は免除の適用を受けた場合の源泉税と日本の税法による税率による源泉徴収した源泉税との差額について、還付請求をすることができます。

本記事では、海外から講師を招いた際の源泉税に関する基本的な取り扱いについて解説しました。

公益法人が海外から講師を招き、国内で講演などの役務提供に対する謝金や旅費を支払う場合、まず講師が非居住者であるかどうかの判定が必要です。

その上で、国内源泉所得に該当するかを確認し、該当する場合には、報酬や旅費に対して源泉税が適用されます。

基本的には20.42%の源泉徴収が必要ですが、租税条約の適用によって税率の軽減や免除が可能な場合もあります。

租税条約を適用するためには、適切な手続きを期限内に行うことが重要です。

また、手続きが遅れた場合でも、後日還付を請求することができるため、適切な書類の整備と管理が求められます。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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