【バーチャル社員総会】運用上の留意点

バーチャル社員総会

記事の対象者

本記事は、「公益社団法人」「一般社団法人」を運営されている事務局の方、多数の会員(社員)で構成される学会などを運営されている事務局の方、社員総会に関与される理事や監事の方を対象としています。

なお、本記事内では、「公益社団法人」「一般社団法人」を総称して「公益法人」と記載し、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」を「一般法人法」と記載します。

記事の概要

本記事は、Web会議システム等のIT環境を利用して社員総会を開催することの適法性や実際の運営のあたったの注意点等の解説を行います。

なお、本記事内では、、Web会議システム等のIT環境を利用して社員総会を「バーチャル社員総会」と記載します。

バーチャル社員総会には、Web会議システム等のみで完結させる「バーチャルオンリー型」、物理的に会場を設け社員総会を運営しつつ、一部の社員はWeb会議システム等で出席する「ハイブリッド型」があります。

以下、それぞれの手法の概要と適法性について解説します。

バーシャル社員総会の分類図

バーシャル社員総会,図

バーチャルオンリー型の社員総会の適法性

まず、バーチャルオンリー型の社員総会について解説します。

バーチャルオンリー型の社員総会は、物理的な会場を設けずに、社員や理事、監事が、Web会議システム等の手段を用いて、社員総会に「出席」をする手法となります。

ここで、一般法人法では、社員総会を開催するにあたり、理事会において開催する「場所」を決議し、招集通知に当該「場所」を記載する必要があります。

そのため、バーチャルオンリー型の社員総会では、物理的な会場を設けることが想定されないため、一般法人に定められている「場所」についての理事会決議、招集通知への記載ができません。

そのため、バーチャルオンリー型の社員総会による開催は、法令上、困難であると解釈されています。

ハイブリッド型の社員総会の適法性

次に、ハイブリッド型の社員総会について解説します。

ハイブリッド型の社員総会は、通常の社員総会と同様に物理的な会場を設け、かつ追加的にWeb会議システム等の手段を用いて、社員総会に「出席」をすることを許容する手法となります。

ここで、ハイブリッド型の社員総会は、Web会議システム等の手段を用いて社員の出席も可能とする「ハイブリッド出席型の社員総会」とWeb会議システム等の手段を用いて審議等の確認・傍聴を可能とする「ハイブリッド参加型の社員総会」に分類されます。

ハイブリッド出席型の社員総会の場合は、バーチャルオンリー型の社員総会と異なり、通常の社員総会と同様に物理的な会場を設けることから、理事会において開催する「場所」を決議し、招集通知に当該「場所」を記載することができます。

そのため、ハイブリッド出席型の社員総会は、一般法人法の要件を満たすことが可能であり、適法性に問題はありません。

なお、ハイブリッド参加型の社員総会も通常の社員総会の開催に加え、追加的に社員に傍聴に準じた参加を認めるものであり、適法性に問題はないと言えます。

バーチャルオンリー型の社員総会は、法的に問題があり、ハイブリッド型の社員総会であれば問題なく開催できることを解説しました。

以下、ハイブリッド型の社員総会を運用するにあたっての実務的な注意点を解説します。

ハイブリッド型の社員総会の運用事例

ハイブリッド型の社員総会については、適法性に問題はありません。

しかし、社員数の多い公益法人では、Web会議システム等のみによる社員総会を開催したいという要望は強くあります。

そこで、社員総会の会場を設けるものの、実際に会場に出席する社員や役員は必要最低限とし、その他の社員は、Web会議システム等から出席するというハイブリッド型の社員総会を開催する手法が行われることがあります。

例えば、会場を借り、当該会場には、議長1名のみが出席し、その他の社員と役員はWeb会議システムから出席するという運用が考えられます。

この手法により、ハイブリッド型の社員総会の形式を確保しながら、バーチャルオンリー型の社員総会に近い形式での運用と行うことが可能となります。

ただし、当該方法を開催する場合は、強制的に全社員にWeb会議システム等による出席を強制することはできません。

そのため、物理的な会場で出席したいという社員の対応や当該社員が参加できるような会場スペースの確保などを事前に検討する必要があります。

バーチャル出席を可能とするシステムの方法等

ハイブリッド型の社員総会を開催するにあたり、利用するWeb会議システム等の選定を行う必要があります。Web会議システムを利用した社員が「出席」として扱うためには、以下のような条件を備える必要があります。

  • 会場と出席社員・役員との間で意思疎通が即座に行うことができる。
  • 社員の議決権の行使をすることが可能である。
  • 社員からの質問や動議の受付に対応できる。

バーチャル出席者の本人確認の方法

社員総会に出席して議決権を行使できる社員は、社員総会開催日現在において社員資格を有する者に限られます。

そのため、社員総会に出席する社員の本人確認を行う必要がありますが、ハイブリッド型の社員総会の場合は、その確認方法が問題となります。

ここで、本人確認の方法としては、事前に社員に送付する議決権行使書面等に社員毎に固有のIDとパスワードや固有のQRコードを記載して送付し、社員がインターネット等の手段でログインする際に、当該IDとパスワード等を用いたログインを求めるなどの手法が必要と考えられます。

そのほか、公益法人や社員の事情等に応じて、社員に固有の情報(社員番号、郵便番号等)を複数用いること、画面上に本人の顔と整理番号を映し出すこと等によって本人確認を行うといった運用方法も想定されます。

代理人のバーチャル出席の取扱い

社員総会では、代理人による議決権行使が認められます。

そのため、ハイブリッド型の社員総会における代理人の本人確認方法が問題となります。

ここで、代理人のバーチャル出席を受け付ける場合には、委任者からメール添付等の何らかの方法で委任状を受領したうえで、代理人による委任者の議決権行使を可能とする必要があると考えられます。

また、バーチャル出席の本人確認をIDとパスワードのみで行う場合には、「なりすまし」の危険があります。

そのため、「なりすまし」の危険が高いと考えられる場合は、2段階認証等の追加の措置を検討する必要があります。

事前の議決権行使とバーチャル出席が重複したときの取扱い

ハイブリッド型の社員総会を開催するにあたり、事前に議決権行使書面を郵送により取得している場合、事前の議決権行使とバーチャル出席が重複したときの取り扱いを事前に決めておく必要があります。

当該取り扱いについては、招集通知などに明記しておくことが有用です。

質問や動議提出の方法

ハイブリッド型の社員総会を開催するにあたり、事前に質問方法や動議の提出方法について定めておく必要があります。

これは、明確なルールを定めず質問や動議等を求める場合、社員が多数の質問を同時並行的にチャットに投稿する、不要な長文を投稿するなど、迷惑行為も可能となり、社員総会の運営に支障を起こす可能性があるためです。

そのため、質問ができる時間、質問方法(チャットなど)、質問回数、質問1回あたりの上限の文字数等を明記し、招集通知などの記載することが有用です。

また、動議の提出についても、動議の提出は、会場出席の社員に限定し、動議を提出する可能性がある社員には、事前に会場出席を検討するように依頼する内容を招集通知等で告知するなど、社員総会の運営に支障を生じないように検討を行う必要があります。

議決権行使の方法

ハイブリッド社員総会の開催にあたり議決権行使の方法についても事前に検討する必要があります。

議決権行使の方法としては、Web会議システム上で挙手をしてもらう方法も考えられますが、社員数が数百名以上いる場合には、現実的な手法とは言えません。

そのため、議決権の行使方法としては、Webアンケート機能等を活用し、賛否を確認する手法が考えられます。

上記については、本人確認同様にIDとパスワードなどの一定のセキュリティを設ける必要があります。

また、議決権の行使方法についても、社員総会当日の混乱を避けるため、招集通知などに明記しておくうことが有用です。

本記事では、公益法人におけるバーチャル社員総会の適法性と実務的な運用方法について解説しました。

バーチャル社員総会には「バーチャルオンリー型」と「ハイブリッド型」の2つの形式があり、法的に適法な運営を行うためには、ハイブリッド型の社員総会である必要があります。

ハイブリッド型の社員総会は、物理的な会場を設けながら、Web会議システムを併用する手法であり、社員の出席や議決権の行使に対応することができます。

実際の運用にあたっては、出席者の本人確認、議決権行使の方法、質問や動議の受付など、多くの要素を事前に検討し、招集通知等に明記しておく必要があります。

また、バーチャル出席を行う場合のシステム選定やセキュリティ対策、代理人出席の取り扱いなども慎重に検討することで、適法、かつ安全な社員総会の実施が可能となります。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
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