公益法人を目指す前の事前確認すべき事項
記事の対象者
本記事は、公益法人を目指す「一般社団法人」「一般財団法人」の役員や事務局の方向けの記事となります。
本記事内では、「一般社団法人」「一般財団法人」を総称して「一般法人」と記載し、「公益社団法人」「公益財団法人」を総称して、「公益法人」と記載します。
また、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」を「公益認定法」、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」を「一般法人法」と記載しています。
記事の概要
一般法人が公益法人になるためには、公益認定の申請書を行政庁(内閣府等)に対して行う必要があります。
本記事では、公益認定の申請を目指す前に確認すべき事項について解説を行います。
公益法人となるための前提条件の確認
公益認定の申請するにあたり主に検討する事項は、事業内容や定款、規程、財務の状況です。
これらの内容については、申請を目指す段階で公益認定基準を満たすように改善することが可能であるケースが大半を占めます。
例えば、事業内容については、当該内容が認定基準の要件等を満たさない場合は、事業内容を見直すことにより対応が可能となります。
同様に、定款や規程も申請準備段階で修正することが可能となります。
しかし、役員構成等の一部の項目については、容易に変更ができない場合も想定されます。
その場合、公益法人を目指すために時間と労力を要し、準備を進めたにも関わらず、公益認定申請が困難であると判断されることもあり得ます。
上記のような作業の無駄が生じないようにするために、公益法人を目指す前に確認すべき事項について解説します。
役員構成
まずは、役員構成については、公益法人を目指す前に確認をすべき事項です。
ここで、公益法人の役員については、親族規制、同一団体規制という制限があり、かつ連座制という検討すべき事項もあります。
なお、役員の同一団体規制や連座制については、以下の記事が参考となります。
特に、事前に確認すべき事項は、同一団体規制となります。
同一団体規制は、公益法人の役員の3分の1が他の同一団体の役員や職員などで構成することを禁止するものであり、公益法人が他の団体に実質的に支配されることを防ぐことを目的としています。
そのため、公益法人を目指す一般法人の存在意義として他の団体との支配関係が前提であり、役員の同一団体規制をクリアできない場合には、公益法人になることは困難であると言えます。
有価証券等の保有状況
次に、有価証券等の保有制限について解説します。
ここで、公益法人は、他の法人を支配することは禁止されています。
そのため、他の法人の議決権の過半数の株式を保有することができません。
上記に対応するためには、議決権の過半数の株式を保有する場合は、株式を無議決権株式にする、議決権を含めて受託者に信託する等の対応が必要となります。
しかし、一般法人の存在意義として株式の議決権を行使することにあり、上記のような対策が困難である場合は、公益法人を目指すことが困難となります。
公益社団法人の社員となるための条件
公益社団法人の社員については、社員となることについて不当な条件を設けてはならないことになっています。
そのため、公益法人を目指す一般社団法人の存在意義が特定の個人や団体等を社員とし、当該社員のために活動することを目的とするような場合は、当該法人の目的、事業内容に照らして当該条件に合理的な関連性及び必要性があるか公益認定申請前に確認すべき事項となります。
なお、専門性の高い事業活動を行っている法人において、その専門性の維持、向上を図ることが法人の目的に照らして必要である場合は、その必要性から合理的な範囲で社員資格を○○士のように一定の有資格者等に限定したり、理事会の承認等一定の手続き的な要件を付したりすることは、不当な条件に該当しないことになっています。
外部への委託業務を含む契約関係の整理
近年、株式会社が社会貢献活動の一環として財団法人を設立し、公益認定を目指すケースが多くなってきました。
上記のようなケースの場合、当該株式会社と公益認定を目指す一般法人との関係性が問題となります。
例えば、当該株式会社等がボランティアのような形で一般法人の事務作業を行っているケースが多くあります。
このような場合、一般法人と株式会社との業務内容を明確にし、契約書等を締結する必要がありますが、一般法人の不利益を被り、株式会社の利益となるような契約がある場合は、「特別の利益」に該当する可能性があります。
なお、特別の利益については、以下の記事が参考となります。
一般法人の存在意義として一般法人が不利益となるような契約の解消が困難である場合には、公益法人を目指すことは困難となります。
事務所のセキュリティ対策
公益法人を目指す一般法人は、専有の事務所を持たず、他の法人の事務所を間借りしていることも多くあります。
最近の公益認定の審査では、事務所の独立性、セキュリティについて確認されることが多くあります。
確認される項目としては、以下のような項目があります。
- 賃貸契約書等の事務所についての契約書が存在しているか?
- 個室となっているか?
- 施錠ができるか?
- 入口から事務所までの経路は、他の法人の専有空間を経由しないか?
- 備え置き書類の閲覧請求に対応できる環境か?
特に、他の法人の事務所を間借りしている場合は、契約書について注意を要します。
ここで、一般的な賃貸契約では、転貸が禁止されていることが多くあります。
そのため、他の法人賃借している事務所の一部を一般法人が間借りしている状況は、契約違反となっている可能性があります。
当然、契約違反で事務所を構え、事業を行っている一般法人の公益認定申請は、内閣府等の審査も厳しくなり、申請にあたり改善が求められることになります。
実施する事業の対象者
公益法人が実施できる事業には、制限があります。
特に、公益目的事業については、どのような事業が公益目的事業に該当するのかチェックリスト等で明確にされています。
なお、公益法人が実施できる事業については、以下の記事が参考となります。
公益目的事業については、申請準備段階においてチェックリスト等の要件を満たし、かつ公益目的事業に該当するように事業内容の見直しを行うことで対応が可能です。
しかし、一般法人の存在意義そのものが、公益目的事業を実施することではなく、特定の個人や団体等への利益を提供するという場合には、事業そのものが公益法人としては適切ではないと判断されます。
特に、一般法人の主たる事業が他の営利法人でも実施している事業である場合には、公益法人となることが困難であることが多いため注意を要します。
財務状況の概要確認
最後に、公益法人の財務面での事前検討事項を解説します。
ここで、公益法人の運営は、一定期間継続する必要があります。
特に、奨学金事業や助成金事業を行う場合には、その財源が課題となります。
奨学金事業や助成金事業などの収益が生じない事業を中心に公益認定申請を行う場合は、財源について内閣府に説明可能か検討する必要があります。
例えば、他の個人や団体からの寄附により奨学金事業を行う場合には、将来の2年か3年程度の寄附確約書を寄附者から入手し、内閣府等の提出が求められることがあるため、その入手可能性について事前の検討が必要となります。
なお、財源が不確実である場合には、一般法人としての事業を開始し、実績を積んだ上で過去の運用実績等を示す等の方法により対応が可能となります。
まとめ
公益法人を目指す際には、公益認定申請の準備を進めながら公益法人として適切な運営を行うように各種改善を行って行くことになります。
しかし、本記事で記載したような事項については、一般法人の設立趣旨や存続意義から改善や対応が不可能であるケースも多々あります。
上記のような場合は、そもそも公益法人を目指すことができない可能性が高い、もしくは長期的に見直しが必要となることが想定されます。
そのため、公益法人を目指す場合には、最低限、本記事の内容は確認し、公益認定申請までに改善が可能であるか確認をすることが有用となります。