【公益法人の奨学金】公益認定等ガイドライン解説

公益法人,奨学金

記事の対象者

本記事は、奨学金を支給する事業をされている「公益社団法人」「公益財団法人」の事務局や役員の方、これから公益法人を目指している方向けの記事となります。

なお、本記事内では、「公益社団法人」「公益財団法人」を総称して「公益法人」と記載します。

記事の概要

2025年4月から公益法人制度が改正されます。

上記の制度改正に伴い「公益認定等ガイドライン」の改正も予定されています。

ここで、公益認定等ガイドラインの改正案では、公益法人が実施する事業のチェックポイントの見直しも含まれています。

本記事では、公益法人の事業として新設されるチェックポイント「奨学金」について内容の解説を行います。

まず、公益法人が実施できる事業の概要を解説します。

公益法人が実施する公益目的事業は、「学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業」であって、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」である必要があります。

また、公益目的事業については、チェックポイントが用意されており、当該チェックポイントを確認しながら、その公益性の判定を行うことになります。

公益法人が実施できる事業については、以下の記事も参考となります。

【公益法人が実施できる事業とは】

公益認定等ガイドラインの改正案では、新たに「奨学金」に関するチェックポイントが追加されることになりました。

ここで、公益認定等ガイドラインにおいて公益法人が奨学金を支給する事業とは、応募・選考を経て、学問その他を修める個人を対象に学費を給付又は無利息貸与・長期分割返済貸与などで支援する事業としています。

公益認定等ガイドラインでは、奨学金の範囲として返還不要の給付型だけでなく、貸与型の奨学金も奨学金事業として位置付けていることになります。

公益認定等ガイドラインの改正案で新設された奨学金のチェックポイントは、以下の6つとなります。

  1. 奨学金が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付けられており、適正な方法で明らかにされているか
  2. 応募の機会が一般に開かれているか
  3. 奨学金の選考が公正に行われることになっているか
  4. 支給等対象者に当該奨学金事業の趣旨・目的に照らして、合理性のない義務をかしていないか。また、義務がある場合、その内容は応募者や支給等対象者に明らかにされているか。
  5. 奨学金の財源は、支給を約束した内容相応に確保されているか
  6. 応募者及び支給対象者等の経済状況・成績等の個人情報を取得する場合にその扱いは、適切であり、そのしくみが公表されているか。

以下、それぞれのチェックポイントについて解説を行います。

奨学金が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付けられており、適正な方法で明らかにされているか

当該チェックポイントは、奨学金が不特定多数の利益の増進に寄与することを明示していることを確認するものとなります。

当該内容の明示方法は、公益法人の定款やWebページ、奨学金に係る規程、事業計画などにより行う必要があります。

応募の機会が一般に開かれているか

公益法人が奨学金を支給するにあたり、奨学金を応募できる対象者をどこまで限定できるのかについては、奨学金事業を検討するにあたり最大の論点でした。

公益認定等ガイドラインの改正案では、「奨学金事業において、応募要件を一定の範囲に限定することがあっても、当該限定の態様が、当該法人の目的、奨学金事業の趣旨・目的、当該奨学金事業の規模、財源等に照らして合理性がある場合には、応募の機会が一般に開かれていると認められる」としています。

また、公益認定等ガイドラインの改正案では、「なお、応募の機会は実質的に開かれている必要があり、応募規定上対象に限定がなくとも、募集要項を特定校のみに送付するなどで、事実上限定されている場合には、受益の機会が開かれていると言えない」と記載しています。

上記より、奨学金事業については、合理的な範囲内で応募要件を限定することは可能であるが、応募要件を限定せずに募集方法などで実質的に制限を加えることはできないということが明記されました。

なお、本チェック項目については、募集要項や選考基準を定めた書類により確認が行われます。

本チェックポイントについて公益認定等ガイドラインでは、2つの事例を紹介しています。

当該事例は、検討にあたり参考となりますので、事例の概要を記載します。

特定の学校の在学生に限る事例

応募要件を特定の学校の在校生に限ることについては、下記の事情を踏まえ応募の機会が開かれていると認めた事例が記載されています。

  • 不特定・多数の者が当該学校に入学可能であること
  • 公益法人の目的は、在校生の経済支援を通じた人材排出であること
  • 社員(卒業生・教職員等の学校関係者)の寄附を奨学金の主要な財源としていること
  • 在校生の数・事業目的等に照らして奨学金事業の規模が不相応に大きなものではないこと。

特定の町村居住者に限る事例

応募要件を特定の居村居住者に限ることについては、下記の事情を踏まえ応募の機会が開かれていると認めた事例が記載されています。

  • 当該地域への居住等は開かれていること
  • 定款においては、有用な人材の育成、教育の水準の向上、地域社会の発展を目的に、特定の町村出身の学生に奨学金を給付する事業を行うとされていること
  • 当該地域出身者からの寄附金等を主な財源としていること
  • 対象者数・事業目的等に照らして奨学金事業の規模が不相応に大きなものではないこと

奨学金の選考が公正に行われることになっているか

公益認定等ガイドラインの改正案では、選考等を行う場合は、原則として以下の要件を求めています。

  • 選考過程における直接の利害関係者の排除
  • 事業内容に応じた専門家の関与
  • 選考方法の透明性の確保

上記の要件を満たすために、一般的には、選考委員会を設置することになります。

なお、公益認定等ガイドラインの改正案では、理事会等の構成に係る説明により、事業に求められる専門性や公正性が確保されると判断できる場合、選考委員会の設置は不要である。

しかし、上記については、どのような条件を満たせば選考委員会の設置が不要であるか具体的な要件が示されていないため、新たに公益認定や変更認定を申請する際には、選考委員会を設置する方針で検討すべきと考えます。

また、公益認定や変更認定申請にあたり、選考委員会の委員には、外部の有識者を含める実務慣行がありました。

しかし、公益認定等ガイドラインの改正案では、「外部の有識者を委員とすることは、選考等の公正性・客観性確保の観点から有益であることが多い」としつつ、「法人自治を尊重し、特段の理由がある場合を除き、法人外部の者から選考を行うことを求めない。」としています。

なお、本チェック項目については、選考委員会規程や選考委員名簿などの確認が求められます。

支給等対象者に当該奨学金事業の趣旨・目的に照らして、合理性のない義務をかしていないか。また、義務がある場合、その内容は応募者や支給等対象者に明らかにされているか

公益認定等ガイドラインの改正案では、奨学金のチェック項目として本チェックポイントを追加しており、他の事業のチェックポイントには含まれない項目となります。

「支給等対象者に当該奨学金事業の趣旨・目的に照らして、合理性のない義務をかしていないか」とは、例えば、公益法人の支給する奨学金の財源の拠出者が特定の病院であり、看護師の資格取得までの学費を奨学金として補助する代わりに資金拠出者である病院への勤務を数年間約束させ、勤務できない場合には奨学金を返還させるような奨学金事業が想定されます。

そして、上記のような義務がある場合は、その内容を応募者や支給等対象者に明らかすることが求められています。

なお、本チェック項目については、募集要項や奨学金規程により確認が行われます。

奨学金の財源は、支給を約束した内容相応に確保されているか

奨学金を必要とする者は、経済基盤が脆弱であり、奨学金の支給が決定された場合、当該奨学金を前提に生活設計を行うことが想定されます。

そのため、奨学金支給の確実な実行が公益法人には、求められることから、当該チェックポイントは、非常に重要なチェック項目となります。

なお、本チェック項目については、過去の実績がある場合は、財務諸表等により確認が行われますが、新設法人など過去に実績がない場合は、財源の確認が個別に行われます。

例えば、特定の団体からの寄附を財源として想定される場合は、寄附確約書などを提出することになります。

私の過去の申請経験では、通常、将来3年程度の資金計画と寄附確約書を提出するケースが多くありました。

なお、寄附確約書を確認した公益法人については、認定後数ヶ月以内に実際の入金を行政庁が確認し、入金の確認ができない場合には、勧告等の措置を講じる旨が公益認定ガイドラインの改正案で明記されています。

応募者及び支給対象者等の経済状況・成績等の個人情報を取得する場合にその扱いは、適切であり、そのしくみが公表されているか

個人情報の取扱については、近年の公益認定申請や変更認定申請の際に確認されることが多くなっています。

こちらについては、個人情報保護法に準拠する形で対応する必要があります。

また、情報管理の適切性としては、規程等で個人情報の取扱について整備することは当然とし、事務所のセキュリティ対策等のハード面での確認を求められることが多くなってきています。

そのため、他の法人の事務所を間切りしている場合などは、当該チェックポイントに基づき指導等がなされる可能性があるため、注意を要します。

なお、本チェック項目については、個人情報保護規程や個人情報保護法に関する資料、Webページなどで確認が行われます。

本記事では、公益認定等ガイドラインの改正に伴い増設された奨学金事業に関するチェックポイントの解説を行いました。

公益法人の奨学金を支給する事業については、実務慣行で求められていた書類等についてガイドライン等で明確にされたものであり、実務的な影響は少ないと想定されます。

また、既存の公益法人等であり、奨学金事業について認定等委員会の承認を受けている場合は、新しいチェックポイントへの移行について、すぐに求められるものではなく、別の変更認定申請などを行う際に同時に指導されることになります。

一方、内閣府等の立入検査時には、新しいチェックポイントに基づき確認がなされると想定されます。

そのため、奨学金事業を実施しているが、新しいチェック項目についての対応ができていない箇所がある場合には、2024年4月以前から順次対応を行う必要があります。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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