【講師の交通費の立替精算】インボイスと源泉税

講師の交通費の立替精算

記事の対象者

本記事は、講師の交通費の立替精算を行っている「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」の事務局の方を対象としています。

なお、本記事内では、「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」を総称して「公益法人」と記載します。

記事の概要

本記事は、講師が支払った交通費の立替精算を行う際のインボイスの取り扱いについて解説を行います。

また、講師の交通費を精算する際の源泉税の取り扱いについても解説を行います。

ここで、交通費の源泉税の取り扱いや考え方に関する詳細は、以下の記事も参考にしてください。
【交通費の源泉徴収】講師編

なお、本記事では、講師の交通費の立替精算についてのみ取り扱い、類似した論点として委員の交通費の立替精算ついては別記事で解説を予定しています。

公益法人が講師に対して講師業務を依頼し、講師が交通費の立替精算を行うことがあります。

そして、講師が交通費を支払い、公益法人に対し立替精算を行う場合は、その精算方法により仕入税額控除や源泉税の取扱いが異なります。

なお、本記事では、以下の例題に基づいて解説を行います。

  • 講師宛の交通機関の領収書を添付して立替精算を行う場合
  • 公益法人宛の交通機関の領収書を添付して立替精算を行う場合
  • 公共交通機関特例を適用しインボイスなしで立替精算を行う場合
  • 小規模特例を適用しインボイスなしで立替精算を行う場合
  • 講師が自ら請求書を発行して立替精算を行う場合

講師宛の交通機関の領収書を添付して立替精算を行う場合

まず、公益法人が講師宛の交通機関の領収書のみに基づいて立替精算を行う場合について解説を行います。

インボイスの取り扱い

公益法人が講師宛の交通機関の領収書のみに基づいて立替精算を行う場合は、当該領収書のみで公益法人向けに交付された適格請求書とすることはできません。

そのため、上記にように講師宛の交通機関のインボイスのみのより立替精算を行う場合、当該公益法人は、10%の仕入税額控除を行うことはできません。

ここで、立替払いを行った講師が公益法人向けのインボイスであることが明らかにした立替精算書等を作成し、公益法人に交付した場合は、当該立替精算書等と交通機関のインボイスの双方を保存することにより公益法人は、10%の仕入税額控除を行うことができます。

なお、上記の場合は、講師が適格請求書発行事業者以外の事業者であっても交通機関が適格請求書発行事業者であれば10%の仕入税額控除を行って問題ありません。

また、交通機関が適格請求書発行事業者以外の者であっても、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

参考情報:インボイス制度に関するQ&A問94、問113-2

源泉税の取り扱い

「公益法人が直接交通機関やホテル等に直接支払う旅費・交通費」については、講師の交通費について源泉徴収が不要とされていますが、講師宛の交通機関の領収書等を取得している場合は、上記の要件には該当いないと判断されます。

そのため、公益法人が講師宛の交通機関の領収書に基づいて立替精算を行う場合は、当該交通費に対して源泉徴収を行う必要があります。

参考情報:税務通信3626号2020年10月19日

公益法人宛の領収書を添付して立替精算を行う場合

次に、公益法人が公益法人宛の交通機関の領収書に基づいて立替精算を行う場合について解説を行います。

インボイスの取り扱い

公益法人が公益法人宛の交通機関の領収書に基づいて立替精算を行う場合は、当該領収書をもって公益法人向けに交付された適格請求書となるため、交通機関のインボイスを保存することにより10%の仕入税額控除を行うことができます。

なお、上記の場合は、講師が適格請求書発行事業者以外の事業者であっても交通機関が適格請求書発行事業者であれば10%の仕入税額控除を行って問題ありません。

また、交通機関が適格請求書発行事業者以外の者であっても、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

参考情報:インボイス制度に関するQ&A問94、問113-2

源泉税の取り扱い

「公益法人が直接交通機関やホテル等に直接支払う旅費・交通費」については、講師の交通費について源泉徴収が不要とされており、公益法人宛の交通機関の領収書等を取得している場合は、上記の要件と同視でき、源泉徴収は不要と解されています。

参考情報:税務通信3626号2020年10月19日

公共交通機関特例を適用しインボイスなしで立替精算を行う場合

インボイス制度には、各種特例があります。

ここでは、当該特例の1つである公共交通機関特例とインボイスと源泉徴収への影響を解説します。

インボイスの取り扱い

3万円未満の公共交通機関のインボイスについては、帳簿に一定の事項を記載するのみで仕入税額控除が可能となります。

そのため、交通費の立替精算金額が3万円未満の場合には、立替精算書等や交通機関のインボイスがなくとも仕入税額控除が可能です。

参考情報:インボイス制度に関するQ&A問94、問104

源泉税の取り扱い

「公益法人が直接交通機関やホテル等に直接支払う旅費・交通費」については、講師の交通費について源泉徴収が不要とされています。

ここで、講師が交通費の立替払いを行い、公益法人宛の領収書等を取得していない場合は、上記の要件には該当しないと解されている。

そのため、3万円未満の公共交通機関であり、公益法人宛の領収書等が取得できない場合は、原則に従い当該交通費に対して源泉徴収を行う必要があります。

参考情報:税務通信3626号2020年10月19日

参考:従業員等出張旅費等特例

帳簿に一定の事項を記載するのみで仕入税額控除が可能となる制度としては、従業員等に対する出張旅費等の特例もあります。

ここで、当該特例は、社員に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額について一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるものとなります。

そして、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる「その旅行に通常必要であると認められる部分」については、所得税基本通達9-3が規定される所得税が非課税となる範囲内で認められることになります。

そのため、所得税基本通達9-3は、給与所得者に対する規定であり、講師に対しては当該規定を適用することはできず、従業員等出張旅費等特例の適用はありません。

参考情報:インボイス制度に関するQ&A問107

小規模特例を適用しインボイスなしで立替精算を行う場合

インボイスの特例のうち小規模の事業者向けの特例もあります。

ここでは、当該小規模の事業者向けの特例の概要と講師の交通費の立替精算時に当該特例を利用した場合のインボイスと源泉徴収の取扱いについて解説します。

インボイスの取り扱い

基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5千万円以下である事業者が、2023年10月1日から2029年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、当該課税仕入れに係る支払対価の額(税込)が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存により、当該課税仕入れについて仕入税額控除の適用を受けることができる経過措置(少額特例)が設けられています。

そのため、上記の条件に該当する交通費の立替精算の場合には、立替精算書等や交通機関のインボイスがなくとも仕入税額控除が可能となります。

参考情報:インボイス制度に関するQ&A問94、問111

源泉税の取り扱い

公共交通機関特例同様に、少額特例を適用し、公益法人宛の領収書等が取得できない場合は、原則に従い当該交通費に対して源泉徴収を行う必要があります。

参考情報:税務通信3626号2020年10月19日

講師が自ら請求書を発行して立替精算を行う場合

最後に、講師の交通費の立替精算を講師自らが請求書を発行し、精算する場合の取扱いを解説します。

インボイスの取り扱い

講師が交通費の立替を行い精算するのではなく、講師自らが交通費を含めた請求書を作成し、公益法人に発行する場合は、講師が適格請求書発行事業者に該当するか否かで取扱いが異なります。

まず、講師が交通費の立替精算を行う場合は、当該交通機関が適格請求書発行事業者であるか否かにより仕入税額控除の可否の判定を行うことになります。

しかし、講師が発行した請求に基づく場合は、講師が適格請求書発行事業者であるか否かにより仕入税額控除の可否の判定を行います。

そのため、講師が適格請求書発行事業者である場合には、講師が発行したインボイスの保存により仕入税額控除を行うことができます。

なお、講師が適格請求書発行事業者以外の者であっても、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

参考情報:インボイス制度に関するQ&A問113-2

源泉税の取り扱い

講師が交通費の立替を行い精算するのではなく、講師自らが交通費を含めた請求書を作成し、公益法人に発行する場合は、源泉徴収が不要である「公益法人が直接交通機関やホテル等に直接支払う旅費・交通費」には該当しないため、交通費に対しても源泉徴収が必要となります。

参考情報:税務通信3626号2020年10月19日

本記事の仕入税額控除の可否と源泉徴収の要否について以下の表に整理します。

なお、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置については、記載を省略しています。

区分仕入税額控除源泉税
交通機関の公益法人宛のインボイスに基づいて立替精算を行う場合交通機関が適格請求書発行事業者である場合は、公益法人宛のインボイスの保存により仕入税額控除可能交通費の源泉徴収不要
交通機関の講師宛のインボイスに基づいて立替精算を行う場合交通機関が適格請求書発行事業者であり、立替精算書等に公益法人宛であることがわかる記載がある場合は、当該立替精算書等とインボイスの双方の保存により仕入税額控除可能交通費の源泉徴収必要
公共交通機関特例を適用しインボイスなしで立替精算を行う場合仕入税額控除可能交通費の源泉徴収必要
小規模特例を適用しインボイスなしで立替精算を行う場合仕入税額控除可能交通費の源泉徴収必要
講師が自らインボイスを発行して立替精算を行う場合講師が適格請求書発行事業者である場合は、講師のインボイスの保存により仕入税額控除可能交通費の源泉徴収必要

講師の交通費の精算方法は、公益法人のよって様々な方法で行われています。

本記事においては、一般的な精算方法を題材にし、仕入税額控除と源泉税の取扱いについて解説を行いました。

ここで、交通費の精算方法については、公益法人ごとに採用している方法が異なるため精算方法を再度確認し、仕入税額控除と源泉税の取扱いに問題がないか再度検討すること有用となります。

なお、本記事の記載は、国税庁のインボイス制度に関するQ&Aや税務通信の記事を参考に作成しています。

実務においては、本記事の事例とは相違する点があり、仕入税額控除や源泉税の取扱いが異なる可能性もあります。

そのため、個別の検討にあたっては、税務署や税務の専門家に相談することが有用となります。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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