公益法人の役員報酬についての取扱い
記事の概要
本記事は、公益法人の役員報酬の考え方について公益認定等ガイドラインの内容を参考に役員報酬に関する規程に記載する支給基準等についての解説を行っています。
記事の対象者
本記事は、「公益社団法人」「公益財団法人」の事務局の方や役員の方、これから公益法人を目指す「一般社団法人」「一般財団法人」を運営されている方を対象としています。
なお、本記事内では、「公益社団法人」「公益財団法人」を総称して「公益法人」と記載し、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」を「認定法」と記載しています。
公益法人の役員報酬と認定法の関係
公益法人の理事、監事、評議員(以下、「役員」とします。)の報酬等が、一般の民間事業者の役員の報酬等や当該公益法人の経理の状況に照らして、不当に高額である場合には、公益目的事業に本来使用されるべき財産が、役員報酬として使われてしまうこととなります。
上記のような状況が継続する場合には、寄附者などの資金提供者の意思に反する可能性や法人の非営利性を逸脱することが懸念され、公益法人の継続的かつ安定的な公益目的事業の実施に支障が生じる可能性があります。
そこで、認定法では、役員報酬が不当に高額なものとならないように役員報酬の支給基準を定めることを公益認定基準の1つとして定めています。
公益法人の役員報酬に関する遵守義務
公益法人の役員報酬は、原則として社員総会又は評議員会で決定することになります。
そのため、公益法人が役員報酬の支給の基準を定めたとしても当該公益法人の社員総会又は評議員会は、当該基準に基づかない不当に高額な報酬等の支給等を決議してしまう可能性があります。
そこで、公益法人には、報酬等の支給に基準に従って、役員報酬を支給しなければならないことを義務付けています。
公益法人が役員報酬について検討すべき事項
公益法人が役員報酬の支給の基準を定める方法としては、役員報酬に関する規程を作成することが一般的となっています。
本記事では、役員報酬に関する規程の作成にあたり留意すべき以下の事項について解説を行います。
- 役員報酬の支給基準
- 役員報酬の公表と開示
- 不当に高額な役員報酬
公益法人の役員報酬の支給基準
まず、公益法人の役員報酬の支給基準について解説を行います。
役員に支給する交通費の取扱い
公益法人は、理事会や総会、評議員会に出席した役員に対して交通費を支給することがあります。
ここで、役員に対して交通費の実費相当額を支給する場合には、役員報酬に該当しません。
しかし、交通費の実費相当額を超えて支給する場合には、役員報酬に関する規程に支給基準として記載することが必要となります。
職員を兼務する役員の報酬の取扱い
公益法人の役員は、当該公益法人の職員を兼務することがあります。
職員としての勤務の対価として相応の給与を受ける場合、当該給与については、役員報酬に関する規程の支給基準に定める必要はありません。
なお、使用人兼務役員については、法人税法にも定めがあります。
ここで、法人税法において代表理事は、使用人兼務役員となれないとされています。
しかし、当該法人税法の規定は、法人税計算上の取扱いであり、認定法とは異なる論点となります。
そのため、認定法においては、代表理事が職員を兼務出来ないという規定は存在せず、代表理事が兼務役員となることは問題ありません。
無報酬の場合の取扱い
公益法人の役員報酬については、無報酬としても問題ありません。
ただし、支給の基準については、定めることが公益認定基準の1つとなっているため、無報酬である旨を役員報酬に関する規程に支給基準として定めることになります。
なお、定款において無報酬として定めている場合は、別途支給基準を定める必要はありません。
ただし、定款において原則として無報酬とし、常勤役員等に対して支給することも「できる」と規定している場合には、役員報酬を支給する場合について役員報酬に関する規程に支給基準として定める必要があります。
また、定款で役員報酬の支給ができる旨の規定はあるものの、当面の間は役員報酬を支給する予定がない場合は、役員報酬に関する規程の支給基準において無報酬である旨を定めることになります。
公益法人の役員の勤務形態に応じた報酬等の区分
公益法人の支給の基準には、役員の勤務形態に応じた役員報酬の区分を定める必要があります。
ここで、役員の勤務形態に応じた報酬等の区分とは、常勤役員、非常勤役員の報酬の別などをいいます。
そのため、役員報酬に関する規程では、常勤理事への月例報酬、非常勤理事への理事会等への出席の都度支払う報酬など、勤務形態に応じて報酬等の区分を設け定める必要があります。
公益法人の役員報酬の金額の算定方法
公益法人の支給の基準には、役員報酬の金額の算定方法を定める必要があります。
ここで、役員報酬の金額の算定方法とは、報酬等の算定の基礎となる額、役職、在職年数等により構成される基準等をいい、どのような過程により役員報酬の金額が算定されるかが第三者にとって理解できるものとなっている必要があります。
役職に応じた一人あたり上限額を定める事例
役員報酬の金額の算定方法については、同じ役職であっても個人により能力や経験が異なることから役員報酬の金額を一律に定めることは困難なケースが多いと考えられます。
そのため、役員報酬の金額の算定方法としては、役職に応じた一人あたりの上限額を定め、各理事の具体的な報酬金額については理事会が決定し、監事や評議員については社員総会(評議員会)が決定するという規定も認められます。
算定方法として不適切な事例
一方、以下のようか役員報酬の金額の算定方法については、どのような算定過程から具体的な報酬額が決定されるのかを第三者が理解することが困難であるとして公益認定基準を満たさないものとされています。
- 社員総会(評議員会)の決議によって定められた総額の範囲内において決定する
- 単に職員給与規程に定める職員の支給基準に準じて支給する
- 代表理事が理事の個々の報酬等の額を決定する
退職慰労金の算定事例
退職慰労金についても役員に対する報酬等に含まれるため、当該退職慰労金の算定方法については、役員報酬に関する規程において明記する必要があります。
なお、退職慰労金の算定方法としては、退職時に月例報酬に在職年数に応じた支給率を乗じて算出した額を上限に各理事については理事会が決定し、監事や評議員については社員総会(評議員会)が決定するという方法も認められます。
公益法人の役員報酬の支給方法及び支給形態
公益法人の役員報酬の支給基準としては、支給方法及び支給形態についても役員報酬に関する規程に明記する必要があります。
そのため、役員報酬に関する規程の支給基準としては、支給の時期(毎月◯日に支給、出席の都度支給など)や支給の手段(銀行振込、現金支給など)、支給の形態(現金、現物等)についても記載する必要があります。
なお、報酬額につき金額の記載しかないなど金銭支給であることが客観的に明らかな場合には、支給の形態として「現金」等の記載は特段不要としています。
公益法人の役員報酬額の開示と公表
高額な役員報酬の支払いがある場合は、個別の金額及びその額とする理由について、一律に法人に説明責任を果たすよう求められるとされています。
ここで、高額な役員報酬としては、2,000万円とされています。
なお、高額な役員報酬についての説明については、あくまで公益法人の説明責任を求めるものであり、当該報酬を否定するものではありません。
ただし、公益法人が法令の規定に基づき適正に文書の作成・開示等を行わず、当該説明責任を果たさない場合には、認定法の規定を遵守しておらず、又は経理的基礎若しくは技術的能力を欠くものとして監督措置を講じるとされています。
不当に高額な役員報酬の考え方
公益認定基準として役員報酬の支給基準を定める目的は、公益法人に不当に高額な役員報酬を支給することにより公益法人の運営に支障が生じることを防止することにあります。
そのため、どの程度の金額が「不当に高額な役員報酬」であるか検討する必要があります。
ここで、不当に高額な役員報酬の例として公益認定等ガイドラインでは、合理的な理由がないにも関わらず、同種・類似法人の役員報酬の2倍超の役員報酬が支給されるような場合は、不当に高額な役員報酬に該当すると考えられるとされています。
しかし、上記の公益認定等ガイドラインの事例においては、「合理的な理由」の基準が示されておらず、「同種・類似法人」についても定義が明確になっていません。
また、同種・類似法人の役員報酬の2倍超とされていますが、当該同種・類似法人の役員報酬の情報を公益法人が独自に調査することは、困難であると考えられます。
そのため、公益法人の不当な高額な役員報酬の対応としては、前項で解説したように2,000万円を超える役員報酬の支払いをする場合に当該役員報酬の理由を説明し、法令の規定に基づき適正に文書の作成・開示等を行う対応を行い、行政庁の意見等を確認しながら報酬額の調整を行うことになると想定されます。
まとめ
公益法人は、公益認定基準の1つとして役員報酬の支給基準を定めることが求められており、役員報酬の算定方法、支給方法、支給形態など役員報酬に関する規程に記載することになります。
本記事では、公益法人における役員報酬に関する規程に記載すべき内容について公益認定等ガイドラインの内容に基づき解説を行いました。
また、公益認定等ガイドラインの改正に伴い明示された公益法人の役員報酬の開示と公表方針についても記載するとともに、不当に高額な役員報酬についても解説を行っています。