【学会の監査】大会の収支報告書に対する監査

学会,監査

記事の対象者

本記事は、収支報告書などの特定の書類に対し公認会計士の監査証明を必要とする学会の事務局の方、公益法人の運営に関与されている方、当該監査に関与する可能性のある専門家の方を対象としています。

また、本記事では、「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」を想定して記事を記載しており、「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」を総称して「公益法人」と記載しています。

記事の概要

本記事では、学会の開催する学術大会等(以下、「大会」とします)の収支報告書等に対する監査について、その種類と報告内容について解説します。

ここで、大会の収支報告書等に対し監査報告書が必要となるケースとしては、以下のような事例が想定されます。

  • 学会が開催する学術大会等の収支報告書に内部ルールにより公認会計士の監査報告が求められる場合
  • 補助金を受領しており補助元に対して提出する報告書に公認会計士の監査報告が求められる場合

上記のような事例のケースにおける監査は、一般的に想定される公益法人が作成する決算書に対する監査と性格が異なり、作成される監査報告書も異なることになります。

そこで、本記事は、公益法人全体の決算書ではなく、特定の業務に対して公認会計士の監査報告書が必要となる場合、どのような監査報告書が入手可能なのか監査の種類と監査報告書の内容について解説を行います。

公認会計士が行う監査は、以下の視点で分類することができます。

  • どのような書類に対して監査を実施するのか?(対象情報)
  • どのような報告を行うのか?(財務報告の枠組み)

監査対象と監査報告による分類

監査対象と監査報告の分類表

対象情報財務報告の枠組み
財務諸表全体一般目的の財務報告(適正表示)公益法人会計基準に基づき作成された財務諸表等に対する監査
個別の財務表
財務諸表項目等
特別目的の財務報告(準拠性)大会運営規程等に基づき作成された学会が開催する大会の収支報告書に対する監査

以下、公認会計士による監査を対象情報と財務報告の枠組みから分類し、解説を行います。

対象情報区分(全体か一部か)

公認会計士による監査は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して行われます。

そして、当該監査の対象となる財務情報は、公益法人が作成した財務諸表全体に行われる場合と個別の財務表や財務諸表項目等のみを対象とする場合があります。

まず、財務諸表全体に行われる場合は、公益法人が作成する貸借対照表(内訳表含む)、正味財産増減計算書(内訳表含む)、財務諸表に対する注記、附属明細書、財産目録など完全な一組の書類に対して行われます。

次に、個別の財務表や財務諸表項目等のみを対象とする場合は、例えば公益法人が実施する特定のイベントの収支報告書のみを監査対象とするように特定の書類のみを監査対象とすることが想定されます。

財務報告の枠組み(一般目的か特別目的か)

公認会計士による監査の財務報告の枠組みとしては、一般目的の財務報告の枠組みと特別目的の財務報告の枠組みの2種類があります。

一般目的の財務報告の枠組み

まず、一般目的の財務報告の枠組みとは、広範囲の利用者に共通する財務情報に対する要求を満たすように策定された財務報告の枠組みをいいます

例えば、公益法人に適用される公益法人会計基準、株式会社に適用される企業会計基準など企業会計基準委員会等が公表する一般に公正妥当と認められる会計基準が想定されます。

特別目的の財務報告の枠組み

次に、特別目的の財務報告の枠組みとは、特定の利用者に対する要求を満たすために策定された財務報告の枠組みをいいます。

例えば、補助金を交付された場合の交付要綱等に定められている交付者への財務報告や学会が開催する学術大会の収支報告書の作成ルールを定めた規程等が該当します。

学会の開催する大会等について作成される収支報告書等に対して監査を実施する場合は、対象情報は個別の財務表であり、学会独自のルールに基づいて作成されるため特別目的の財務報告の枠組みに基づいて公認会計士による監査が行われ、監査報告が行われます。

以下、特別目的の財務報告の枠組みに基づき行われる監査を公認会計士等に依頼する場合の留意事項について解説します。

大会の収支報告書等の監査における財務報告の枠組み

大会の収支報告書等については、通常の公益法人の監査と異なり、公益法人会計基準などの準拠すべき基準がありません。

そのため、どのようなルールに従い大会の収支報告書等を作成するか財務報告の枠組みとして事前に明確にしておく必要があります。

また、公認会計士の監査を受けるにあたり、監査人は、大会の収支報告書等の監査における財務報告の枠組みが受入可能なものであるか判断することが求められています。

したがって、大会の収支報告書等の監査を依頼する公認会計士に事前に財務報告の枠組み等を相談しておくことが有用と考えます。

大会の収支報告書等の監査における内部統制

学会の開催する大会等に関する監査を公認会計士に依頼する場合は、大会の収支報告書の作成に影響する最低限の管理体制は、構築されていなければなりません。

例えば、大会等において現金を取り扱うのであれば、現金が適切に管理されている必要があります。

また、経費の支払にあたり請求書や領収書などの証憑書類が完備されているなど、監査を行うにあたり前提となる管理体制は必要となります。

そのため、大会の収支報告書等の作成に関する管理体制としてどのようなルールが必要か等についても事前に公認会計士に相談しておくことが有用となります。

監査報告書の内容の事前の確認

学会の開催する大会等に関する監査という特別目的の監査証明については、専門の公認会計士であっても経験を有していない専門家も多いと想定されます。

そこで、学会が必要とする記載内容が監査報告書に含まれているか、学会と公認会計士の間で認識に齟齬がないか契約前の段階で確認を行うことが重要となります。

特に、監査意見の対象が学会の求めている内容になっているのか、監査報告書に利用制限が記載されている場合は、当該利用制限が、学会が許容できるものであるか確認すべきと考えます。

本記事では、学会が開催する学術大会等の収支報告書に対する公認会計士による監査の重要性と、その際の留意事項について解説しました。

特に、特別目的の財務報告の枠組みが必要となることや、監査対象の収支報告書の作成に関するルールの整備が求められる点について強調しました。

また、内部統制の重要性と、適切な管理体制が監査に不可欠であることにも触れました。

公認会計士との事前相談を行い、適切な財務報告と管理体制を整備することが、学術大会等の監査を円滑に進めるための鍵となるでしょう。

関連記事

関連サービス

この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

お気軽にご連絡ください。非営利法人の税務・会計の専門家として非営利法人のサポートをさせて頂きます。 また、プログラミングを使用した業務効率化等のご相談も対応可能です。

東京都中央区東日本橋2-24-12 東日本橋槇町ビル3階
TEL:03-5579-9773