一般社団法人と非営利型とは?
対象とする法人
本ブログでは、一般社団法人の「非営利型」の特徴について、以下の方を想定して記載しています。
- 社団法人等の設立を考えている方
- 学会などを運営しており法人化を検討されている方
また、本ブログが対象とする公益法人は、「一般社団法人」と「一般財団法人」とし、一般社団法人と一般財団法人を総称し、「一般社団法人」として記載します。
なお、説明する税法の範囲としては、法人税を中心に行い、地方税、消費税については、別のブログで説明したいと思います。
税務上の分類
一般社団法人は、一定の要件を満たすことにより法人税法上、「非営利型の一般社団法人」と「非営利型以外の一般社団法人」に分類されます。
まず、理解しやすい「非営利型以外の一般社団法人」について説明します。
一定の要件を満たさない「非営利型以外の一般社団法人」の法人税の取り扱いは、株式会社等の営利法人とほぼ同じと理解して頂いて問題ありません。そのため、株式会社の決算同様に決算書を作成し、法人の利益を算定し、当該利益に対して法人税が課税されます。
一方、「非営利型の一般社団法人」は、法人税法において特殊な取り扱いがなされます。
法人税法の相違点
非営利型以外の一般社団法人の法人税法の取り扱い
「非営利型以外の一般社団法人」は、税法上、株式会社等と同様の取り扱いを受ける旨を説明しました。
具体的には、事業を行って獲得した「全ての収益」から「全ての費用」を控除し、利益を計算します。
そのうえで、税法特有の調整を行い、課税所得の算定を行い、当該課税所得に税率を乗じて税額を算定します。
法人税の計算式:非営利型以外の一般社団法人の場合
簡単に計算式を見てみましょう。このような計算方法を本ブログでは、「全所得課税」と呼ぶことにします。
課税所得 = 全ての収益 ― 全ての費用 ± 調整
法人税額 = 課税所得 × 税率
非営利型の一般社団法人の法人税法の取り扱い
一方、「非営利型の一般社団法人」の場合は、全所得課税の計算式で「全ての収益」、「全ての費用」と記載されている箇所の取り扱いが大きく異なります。
法人税法上の収益事業
非営利型の一般社団法人の法人税法の計算式を確認するまえに、まず法人税法上の収益事業という制度について説明します。
法人税法では、以下に記載した34種の事業を収益事業として定めています。
当該事業は、法人税法上の収益事業と呼ばれ、非営利型の一般社団法人等の場合は、当該事業に対してのみ課税されることになります。
このように、特定の事業の収益と費用のみを抜き出して税額の算定する方法を一般的に「収益事業課税」と呼びます。
物品販売業 | 不動産販売業 | 金銭貸付業 | 物品貸付業 | 不動産貸付業 |
製造業 | 通信業 | 運送業 | 倉庫業 | 請負業 |
印刷業 | 出版業 | 写真業 | 席貸業 | 旅館業 |
料理店業その他の飲食店業 | 周旋業 | 代理業 | 仲立業 | 問屋業 |
鉱業 | 土石採取業 | 浴場業 | 理容業 | 美容業 |
興行業 | 遊技所業 | 遊覧所業 | 医療保健業 | 技芸教授業 |
駐車場業 | 信用保証業 | 無体財産権の提供等業 | 労働者派遣業 |
法人税の計算式:収益事業課税の場合
それでは、収益事業課税の場合の法人税の計算式を見てみましょう。
課税所得 = 収益事業の収益 ― 収益事業の費用 ± 調整
法人税額 = 課税所得 × 税率
全所得課税では、「全ての収益」、「全ての費用」と記載されている箇所が、収益事業課税では「収益事業の収益」、「収益事業の費用」となっていることが分かります。
全所得課税と収益事業課税の比較事例
計算式だけでは、影響が理解できないため、具体的に以下の事例で考えてみましょう。
設立した法人の収益と費用が以下のとおりであったとします。なお、税率は、30%と仮定します。
項目 | 金額 |
---|---|
寄付金の受取 | 100円 |
物品販売の収益 | 400円 |
物品販売の費用 | 350円 |
法人税法上の調整項目 | 0円 |
事例:全所得課税の場合
全所得課税の場合は、全ての収益と全ての費用を対象とするため、以下のように算定されます。
課税所得150円 = (寄付金100円+物品販売収益400円) ― 物品販売費用350円 + 調整0円
法人税額45円 = 課税所得150円 × 税率30%
事例:収益事業課税の場合
一方、収益事業課税の場合は、34種の収益事業のみに課税されますので、本事例では、物品販売業のみを抜き出して税金の計算を行います。
寄付金については、34種の収益事業に該当する項目がないため、税金計算には含まれません。
課税所得50円 = 物品販売収益400円 ― 物品販売費用350円 + 調整0円
法人税額15円 = 課税所得50円 × 税率30%
今回の事例の場合、収益事業課税が有利という結果になりました。
ただし、これは、当該事例の場合の話であり、必ず収益事業課税が有利となるとは限りません。
例えば、34種の収益事業に該当しない事業で赤字を計上している場合などは、全所得課税が有利になるケースも想定されます。
非営利型の一般社団法人の要件
次に、非営利型の一般社団法人に該当するための要件について説明を行います。
要件には、2種類あり、「非営利性が徹底された法人(以下、「完全非営利法人型」とする)」と「共益的活動を目的とする法人(以下、「共益型」とする)」に区分されます。
完全非営利法人型
NO | 要件 |
---|---|
1 | 剰余金の分配を行わないことを定款に定めていること。 |
2 | 解散したときは、残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与することを定款に定めていること。 |
3 | 上記1及び2の定款の定めに違反する行為(上記1、2及び下記4の要件に該当していた期間において、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを含みます。)を行うことを決定し、又は行ったことがないこと。 |
4 | 各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること。 |
共益型
NO | 要件 |
---|---|
1 | 会員に共通する利益を図る活動を行うことを目的としていること。 |
2 | 定款等に会費の定めがあること。 |
3 | 主たる事業として収益事業を行っていないこと。 |
4 | 定款に特定の個人又は団体に剰余金の分配を行うことを定めていないこと。 |
5 | 解散したときにその残余財産を特定の個人又は団体に帰属させることを定款に定めていないこと。 |
6 | 上記1から5まで及び下記7の要件に該当していた期間において、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと。 |
7 | 各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること。 |
完全非営利法人型と共益型のどちらを選択すべきか?
完全非営利法人型、共益型のいずれかを選択すればよいかという質問をよく受けます。
私見となりますが、解散の可能性がない、解散するとしても財産が残らない、仮に財産が残ったとしても国等への贈与することを想定しているのであれば、完全非営利法人型を選択する方が無難と考えます。
理由は、完全非営利法人型の要件のうち1、2、4は、客観的に定めることが可能であり、3の要件については、法人設立後に遵守すれば良いため、非営利型の要件を満たすことを客観的に確認することが可能となります。
一方で、共益型は、要件のうち1の「会員に共通する利益を図る活動を行うことを目的としていること」という内容が主観的であり、要件を満たしているかの判断が困難なケースが多々あります。
また、共益型は、要件のうち3の「主たる事業として収益事業を行っていないこと。」の要件を毎期確認する必要があり、何かしらの原因で当該要件を満たさない可能性も想定されます。
非営利型の一般社団法人を選択する判断基準
ここまでの非営利型の一般社団法人の特徴について説明を行いました。
各種検討する事項が多く、非営利型の一般社団法人を選択すべきか迷われる方も多いと思います。
参考までに、非営利型の一般社団法人を選択する際に検討すべき事項を列挙します。
収益事業の有無について
非営利型の一般社団法人が法人税法上、有利となるとは限りません。
そのため、以下のように非営利型の一般社団法人の法人税法の取り扱いが有利となるケースの場合は、非営利型を選択する1つの参考情報となります。
- 34種の税務上の収益事業に該当する事業の実施予定がない。
- 34種の税務上の収益事業を実施する予定はあるが、当該収益事業の利益が法人全体の利益よりも少ない。
- 主な収入源として寄付金や補助金、会費などを想定している。
理事の人選について
完全非営利型、共益型の両方の要件に「各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数 の3分の 1 以下であること。」という要件があります。
上記の要件から、理事は必ず3名以上必要であり、かつ親族等で構成されないようにする必要があります。上記要件を常時満たすような人員を確保できる体制が必要となります。
特別の利益について
非営利型の要件として、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを禁止しています。
「特別の利益」概念は、広範に及ぶため、判断が困難なケースが多くなっています。
しかし、特定の個人や団体に対し、当該一般社団法人等の活動の結果、何等かの利益を与えることが想定される場合は、慎重な判断が求められます。
結論
本ブログでは、非営利型の一般社団法人について説明を行いました。
「非営利=税法上、優遇されている」という誤解が多くあります。
法人の運営内容次第では、非営利型の一般社団法人を選択しない方が有利なケースもあります。
また、非営利型には、役員構成や特別の利益の有無など、一定の制限があることも考慮する必要があります。
一般社団法人の設立の際は、各種条件や有利不利の判定を行う必要があります。そして、検討の結果、どのような法人形態にするのが良いか設立前に検討することが有用となります。
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