【公益法人が実施できる事業とは】

公益法人,事業

記事の対象者

本記事は、「公益社団法人」及び「公益財団法人」を対象としています。

そのため、本記事の内容は、「公益社団法人」及び「公益財団法人」に限定されますので、一般社団法人や一般財団法人の事業については、無関係の内容となりますので、ご注意ください。

なお、本記事では、「公益社団法人」及び「公益財団法人」を総称して「公益法人」と記載することにします。

また、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律については、「認定法」と記載します。

記事の概要

本記事では、公益法人が実施できる事業について解説を行います。

なお、公益目的事業だけでなく、誤解の多い公益目的事業以外の事業についても説明を行っています。

まず、公益法人が実施できる事業は、以下の3つに区分すること出来ます。

  • 公益目的事業
  • 収益事業
  • その他の事業(相互扶助事業)

以下、それぞれの事業について解説を行います。

なお、収益事業とその他の事業をまとめて「収益事業等」といいますが、本記事では、双方を区分して説明を行います。

公益目的事業

最初に、公益目的事業について説明します。

公益目的事業とは、「学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業」であって、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」をいいます(認定法第2条第4号)。

ここで、公益目的事業の定義から「学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業」と「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」という2つの要件を満たせば良いということが分かります。

以降、これら2つの要件について以下解説します。

「学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業」とは

まず、「学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業」という点について解説します。

認定法の別表に23種の事業の定めがあり、公益目的事業に該当するためには、当該23種の事業のいずれかに該当する必要があります。

以下、認定法の別表に定める23種の事業となります。

なお、わかりやすさを重視し、私見により23種の事業を7つの項目に分類しています。こちらは、一般的に分類されているものではありませんので、ご注意ください。

学術文化関係
  • 学術及び科学技術の振興を目的とする事業
  • 文化及び芸術の振興を目的とする事業
支援関係
  • 障害者若しくは生活困窮者又は事故、災害若しくは犯罪による被害者の支援を目的とする事業
  • 高齢者の福祉の増進を目的とする事業
  • 勤労意欲のある者に対する就労の支援を目的とする事業
  • 公衆衛生の向上を目的とする事業
  • 児童又は青少年の健全な育成を目的とする事業
  • 勤労者の福祉の向上を目的とする事業
  • 教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵養することを目的とする事業
犯罪等の防止関係
  • 犯罪の防止又は治安の維持を目的とする事業
  • 事故又は災害の防止を目的とする事業
差別等の撤廃関係
  • 人種、性別その他の事由による不当な差別又は偏見の防止及び根絶を目的とする事業
  • 思想及び良心の自由、信教の自由又は表現の自由の尊重又は擁護を目的とする事業
  • 男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業
開発及び政治関係
  • 国際相互理解の促進及び開発途上にある海外の地域に対する経済協力を目的とする事業
  • 地球環境の保全又は自然環境の保護及び整備を目的とする事業
  • 国土の利用、整備又は保全を目的とする事業
  • 国政の健全な運営の確保に資することを目的とする事業
  • 地域社会の健全な発展を目的とする事業
  • 公正かつ自由な経済活動の機会の確保及び促進並びにその活性化による国民生活の安定向上を目的とする事業
  • 国民生活に不可欠な物資、エネルギー等の安定供給の確保を目的とする事業
消費者保護関係
  • 一般消費者の利益の擁護又は増進を目的とする事業
その他
  • 前各号に掲げるもののほか、公益に関する事業として政令で定めるもの

「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」とは

次に、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」という点について解説します。

「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」というのは、非常に判断が難しいポイントとなります。なぜならば、何を持って「不特定かつ多数の者」の利益となるかという判断は、人によって考え方が異なるためです。

上記について平成20年12月の公益法人制度改革以前は、「何が公益なのか?」という点について基準が曖昧であり、公益的な活動をしていると言えないような団体も公益法人として活動していました。

そこで、一定の客観性を確保するため、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」については、「公益目的事業のチェックポイント」というチェックポイントを公表し、当該チェックポイントに従い、公益法人が事業の説明を行政庁に行い、有識者で構成される公益認定等委員会において判断するということになりました。

公益目的事業のチェックポイント

前項で説明した「公益目的事業のチェックポイント」について解説します。

公益目的事業のチェックポイントは、以下の項目について設定されています。どの項目にも該当しない場合は、「その他」で検討を行うことになります。

  • 検査検定
  • 資格付与
  • 講座、セミナー、育成
  • 体験活動等
  • 相談、助言
  • 調査、資料収集
  • 技術開発、研究開発
  • キャンペーン、○○月間
  • 展示会、○○ショー
  • 博物館等の展示
  • 施設の貸与
  • 資金貸付、債務保証等
  • 助成(応募型)
  • 表彰、コンクール
  • 競技会
  • 自主公演
  • 主催公演
  • その他
参考:助成(応募型)のチェックポイント

参考までに「助成(応募型)」について見てみましょう。

このチェックポイントは、返還不要の奨学金などの事業を行う際に使用されます。

  1. 当該助成が不特定多数の者の利益の増進に寄与することを主たる目的として位置付け、適当な方法で明らかにしているか。
  2. 応募の機会が、一般に開かれているか。
  3. 助成の選考が公正に行われることになっているか。(例:個別選考に当たって直接の利害関係者の排除)
  4. 専門家など選考に適切な者が関与しているか。
  5. 助成した対象者、内容等を公表しているか。(個人名又は団体名の公表に支障がある場合、個人名又は団体名の公表は除く。)
  6. (研究や事業の成果があるような助成の場合、)助成対象者から、成果についての報告を得ているか。

上記のようなチェック項目が明確となったため、公益目的事業として新たな事業を実施する場合には、このチェックポイントに適切な回答ができるように事業を構築することになります。

例えば、奨学金事業を新たに行う場合、当該チェックリストを確認しながら、対象者、応募方法、選考方法、専門家を関与させる方法、公表方法、結果報告方法などを決めなければなりません。

収益事業

次に、収益事業について説明します。

まず、収益事業については、公益目的事業と異なり、認定法において明確な定義がありません。

そのため、関連資料等から収益事業の内容を把握することになりますが、公益認定等ガイドラインという認定法について補足説明を行っている資料において、「収益事業とは、一般的に利益を上げることを事業の性格とする事業である。」と記載されています。

このことから、収益事業とは、公益目的事業の要件を満たさない事業であり、かつ利益を上げることを目的とする事業ということが出来ます。

認定法上の収益事業の注意点

収益事業は、「利益を上げることを事業の性格とする事業」という記載がポイントとなることがあります。

ここで、公益認定申請書類等の申請書に収益事業について記載する際には、「収益事業の利益の額が0円以下である場合の理由又は今後の改善方策について」を記載すること求められています。

これは、認定法において、「公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがないこと」が認定基準として求められており、収益事業が赤字の場合には、公益目的事業の実施に支障を及ぼす可能性があることから記載することになります。

なお、一時的な赤字であれば、問題になることはありませんが、継続的に収益事業が赤字になる場合は、認定法に違反する可能性があるため、注意が必要となります。

法人税法の収益事業との相違点

「収益事業」という単語を聞くと、法人税法上の収益事業を思い出す方もいるかもしれません。

ここで、法人税法の収益事業と認定法の収益事業を同一であると誤解されている方も多くいます。

しかし、法人税法の収益事業と認定法の収益事業は、全く異なる概念であり、結果的に同じになることはありますが、それは偶然の一致に過ぎません。

法人税法上の収益事業は、法人税法において34種の事業を定めており、当該収益事業の課税所得を算定し、法人税額を算定することになります。一方、認定法上の収益事業は、「一般的に利益を上げることを事業の性格とする事業である。」とのみ定められており、法人税法における34種の収益事業とは異なり、明確に事業の種類を定めていません。

なお、法人税法上の収益事業については、以下のブログで整理していますので、こちらのブログも参考にしてください。

【非営利型の一般社団法人とは】

その他の事業(相互扶助事業

最後に、その他事業(相互扶助事業)について解説します。

ここで、その他の事業についても収益事業同様に認定法において明確な定義はありません。

なお、認定等ガイドラインにおいて、「法人の構成員を対象として行う相互扶助等の事業が含まれる。例えば、構成員から共済掛金の支払を受け、共済事故の発生に関し、共済金を交付する事業、構成員相互の親睦を深めたり、連絡や情報交換を行ったりなど構成員に共通する利益を図る事業などはその他の事業である。」と例示が示されています。

上記のような記載から、実務においては、その他の事業としては、社団法人の社員(会員)に対する相互扶助を目的とした事業が該当しているケースが多いと考えます。

認定法上のその他の事業の注意

認定法上の収益事業の注意点の項目でも説明しましたが、認定法において、「公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがないこと」が認定基準として求められています。

そのため、本来であれば、その他の事業も収益事業同様に赤字の事業であれば、改善が必要と考えられます。しかし、現行制度において、公益認定申請書類等の書類にその他の事業の記載箇所には、「利益の額が0円以下である場合の理由又は今後の改善方策について」を記載する箇所はありません。

なお、申請書等に記載箇所がないこと理由は、明確になっていませんが、申請時に行政庁等からの質問対応を行えるように準備は必要となります。

その他の事業の法人税法の収益事業との関係

法人税法の収益事業との相違点の項目でも記載しましたが、法人税法の収益事業は、認定法上の収益事業とは異なる概念となります。

そのため、認定法上のその他の事業に該当する事業であっても、法人税法上の収益事業に該当する可能性があるため、注意が必要となります。

2024年度時点での制度

まず、現行制度について説明します。

現行制度において公益法人は、行政庁から認定を受けた事業のみを実施することが可能です。そのため、公益目的事業、収益事業及びその他の事業のどの事業であっても、新しく事業開始する場合は、事業開始前に行政庁に認定を受ける必要があります。

ただし、一定の条件を満たす場合には、認定ではなく、届出のみで良いとされています。

2025年度改正案

次に、2025年4月より公益法人制度の改正が予定されていますので、改正内容についても簡単に説明します。

ここで、本記事に関連する大きな改正点として収益事業等(収益事業、その他の事業)については、事前に認定を受ける必要がなくなり、届出のみで事業を開始出来ることになる予定となっています。

なお、改正情報については、が更新され次第、本ブログの更新も行う予定ですので、最新情報にご留意ください。

本記事では、公益法人の実施する事業について説明を行いました。

本記事で解説したように公益法人は、一般社団法人や株式会社と異なり、どんな事業でもすぐに実行できるという訳ではなく、実施可能な事業の範囲があり、かつ原則として一定の手続きが事前に必要となります。

このように、公益法人を運営されている方は、事業を新しく開始したい場合は、事前に専門家や行政庁の相談を行うなど、事業開始前段階での適切な対応が有用となります。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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