【公益法人の遊休財産規制の対応策】

公益法人,遊休財産

公益法人が満たすべき財務基準として以下の3つがあります。

  • 収支相償
  • 公益目的事業比率
  • 遊休財産保有制限

ここで、資産を多く保有している公益法人や一時的に支出が減少した公益法人などは、遊休財産額の保有制限の要件を満たさないこと事例も多くあります。

そのため、本ブログでは、公益法人が遊休財産額の保有制限の要件を満たさない場合の対応策について説明を行います。

まず、遊休財産の保有制限について説明を行います

遊休財産額の保有制限の説明にあたり、遊休財産について理解が必要となります。

ここで、遊休財産とは、公益法人の保有している正味財産の金額のうち使途が決まっていないような財産額を遊休財産額を言います。

そして、公益法人は、毎事業年度の末日における遊休財産額が当該事業年度における公益目的事業の実施に要した費用の額を基礎として算定した金額(以下、「遊休財産の保有上限額」とする。)以内となるように求められています。

上記のような公益法人が遵守する基準を遊休財産額の保有制限と言います。

式で示すと以下のようになります。

公益法人の遊休財産額 < 遊休財産の保有上限額

では、公益法人の遊休財産額及び遊休財産の保有上限額の算定方法を具体的に見ていきましょう。

公益法人の遊休財産額の算定式

遊休財産額 = 資産の金額 ― 負債の金額 ― 基金の金額(※) ― 控除対象財産の額 ― 対応負債の額

(※)基金については、該当しない公益法人が多いため、本稿での説明は省略しています。

式を見ただけでは、理解が難しいと思います。

ざっくりとした表現で説明すると、「純資産 ― 使い道の決まっている財産」となります。

遊休財産の保有上限額の算定式

遊休財産の保有上限額 = 公益目的事業に係る事業費 + 公益目的事業の特定費用準備資金の積立額 - 公益目的事業の特定費用準備資金の取崩 ± その他調整額

こちらも式を見ただけでは、理解が難しいと思います。

ざっくりとした表現で説明すると、「公益の事業に使用するの費用の1年分」となります。

(1)遊休財産額と控除対象財産額の関係

遊休財産保有制限の要件を改めて確認してみましょう。

公益法人の遊休財産額 < 遊休財産の保有上限額

仮にこの条件を満たしていない場合、この式から基準を満たすためには、遊休財産額を減少させるか、保有上限額を増加させれば良いことが理解できます。

遊休財産額(減少) < 遊休財産の保有上限額(増加

遊休財産額を減少させる方法

まず、遊休財産額を減少させる方法について検討しましょう。

以下の遊休財産額の算定式を改めて確認してください。

遊休財産額 = 資産の金額 ― 負債の金額 ― 基金の金額 ― 控除対象財産の額 ― 対応負債の額

この計算式において、「資産の金額、「負債の金額」、「基金の金額」は、公益法人の貸借対照表から入手できる情報であり、基本的に意図的に変動させることは困難となります。

また、「対応負債の額」も算定式により自動で計算されるものであり、意図的に変動できるものではありません。

そのため、遊休財産額を減少させる方法としては、「控除対象財産の額」を増加させることを検討することになる。

遊休財産額(減少)= 資産の金額 ― 負債の金額 ― 基金の金額 ― 控除対象財産の額(増加)― 対応負債の額

当該控除対象財産の額は、一定程度、公益法人の意思決定により増加させることが可能となっています。

遊休財産の保有上限額を増加させる方法

次に、遊休財産の保有上限額を増加させる方法について検討しましょう。

以下の遊休財産の保有上限額の計算式を改めて確認してください。

遊休財産の保有上限額 = 公益目的事業に係る事業費 + 公益目的事業の特定費用準備資金の積立額 - 公益目的事業の特定費用準備資金の取崩 ± その他調整額

調整できる項目は何処か?

この計算式において、「公益目的事業に係る事業費」については、決算日前であれば、必要な事業を拡大するなどにより対応可能です。しかし、決算日後に遊休財産額の保有制限の要件を満たさない場合は、当該項目での調整はできません。

また、「公益目的事業の特定費用準備資金の取崩」については、「公益目的事業に係る事業費」の使用に応じて取崩しを行うことになるため、上記で記載した「公益目的事業に係る事業費」を減らすことにより公益目的事業の特定費用準備資金の取崩額も減少させることが可能となりますが、「公益目的事業に係る事業費」も遊休財産の保有上限額の算定式に含まれているため遊休財産の保有上限額への影響は限定的となります。

「公益目的事業の特定費用準備資金の取崩」のタイミング時期を法人の意思で調整する方法も考えられますが、本校の主論点とは異なるためこちらについては別の記事として更新したいと思います。

上記より、遊休財産の保有上限額を増加させるためには、「公益目的事業の特定費用準備資金の積立額」を増加させることを検討することになります。

遊休財産の保有上限額(増加)= 公益目的事業に係る事業費 + 公益目的事業の特定費用準備資金の積立額(増加)- 公益目的事業の特定費用準備資金の取崩 ± その他調整額

結局、どの項目を調整すれば良いのか?

ここで、特定費用準備資金は、遊休財産額を減少させる方法として記載した「控除対象財産」の1つとなります。

そのため、遊休財産額の保有制限の要件を満たすための対策としては、「控除対象財産」という財産を理解し、適切に増加させることが重要ということになります。

控除対象財産の内容

ここで、控除対象財産とは、以下の6つに限定されています。

控除対象財産は、使途を定めた財産すべてが該当するのではなく、一定の要件を満たし、事業報告等の定期提出書類に明記した財産のみが対象となります。

控除対象財産の種類例示(イメージ)
1号財産
公益目的保有財産
公益目的事業に運用益を使用すると定めた金融資産や公益目的事業に使用している償却資産等が該当します。
2号財産
公益目的事業に必要な収益事業等その他の業務又は活動の用に供する財産(以下、「収益事業等・管理活動財産)とする。)
収益事業やその他事業、管理に運用益を使用すると定めた金融資産や収益事業やその他事業、管理に使用している償却資産等が該当します。
3号財産
資産取得資金
将来、資産を購入するために別途積立を行っている資金が該当します。
4号財産
特定費用準備資金
将来、事業に対する支出に充当するために別途積立を行っている資金が該当します。
5号財産
交付者の定めた使途に従い使用・保有している財産
交付者から「特定の事業のために使用してほしい」と使途の定めがある不動産等が寄贈され、当該使途の定めに従い使用・保有している財産などが該当します。
6号財産
交付者の定めた使途に充てるために保有している資金
交付者から「特定の事業のために使用してほしい」と使途の定めがある預金等が寄付されたが、決算日時点で未使用となっている資金などが該当します。

公益法人の意思決定により調整可能な控除対象財産

ここで、「交付者の定めた使途に従い使用・保有している財産(5号財産)」と「交付者の定めた使途に充てるために保有している資金(6号財産)」については、公益法人外部の者が公益法人に使途を指定して寄付や寄贈を行う財産であるため、公益法人の意思決定により控除対象財産の額を調整することはできません。

そのため、遊休財産額を減少させるために公益法人の意思決定で調整可能な方法は、控除対象財産の中でも公益目的保有財産(1号財産)、収益事業等・管理活動財産(2号財産)、資産取得資金(3号財産)、特定費用準備資金(4号財産)を増加させる方法に限定されます。

(2)遊休財産保有制限の対応策としての控除対象財産

ここまでの説明で、遊休財産額を減少させるには、公益目的保有財産(1号財産)、収益事業等・管理活動財産(2号財産)、資産取得資金(3号財産)、特定費用準備資金(4号財産)を増加させることが重要であることを説明しました。

以下、公益目的保有財産(1号財産)、収益事業等・管理活動財産(2号財産)、資産取得資金(3号財産)、特定費用準備資金(4号財産)の留意点を説明します。

(a)公益目的保有財産(1号財産)と収益事業等・管理活動財産(2号財産)を増加させることの注意点

まず、公益目的保有財産(1号財産)については、控除対象財産としていない金融資産などがある場合、当該金融資産の運用益を公益目的事業に使用することを定め公益目的保有財産とすることを理事会等で決議することにより控除対象財産とすることが可能となります。

次に、収益事業等・管理活動財産(2号財産)についても公益目的保有財産(1号財産)同様に該当する金融資産等がある場合、当該金融資産の運用益を収益事業やその他事業、管理に使用することを定めることにより控除対象財産とすることができます。

ここで、遊休財産を減少させるための対応策としては、公益目的保有財産(1号財産)や収益事業等・管理活動財産(2号財産)として設定可能な財産を保有していれば理事会等の法人内の決議のみで対応可能であるため、手続きとしては容易となります。

しかし、公益目的保有財産(1号財産)は、原則として取崩ができず、収益事業等・管理活動財産(2号財産)についても取崩には一定の制限があります。

そのため、公益法人の長期的な運営を考慮すると取崩に制限がある公益目的保有財産や収益事業等・管理活動財産については、遊休財産の保有制限の要件を満たすための方策としては、他の対応策がない場合に検討すべきで考えます。

(b)資産取得資金(3号財産)と特定費用準備資金(4号財産)の相違点

資産取得資金(3号財産)及び特定費用準備資金(4号財産)は、両者とも将来の支出に対する事前の積立を行うものとなります。

しかし、資産取得資金(3号財産)は、控除対象財産の額にのみ影響するのに対し、特定費用準備資金(4号財産)は公益目的事業に対する積立であれば控除対象財産の額だけでなく、遊休財産の保有上限額にも影響を与える点が相違します。

以下、資産取得資金に100の積立を行った場合と公益目的事業の特定費用準備資金に100の積立を行った場合の遊休財産額の保有制限の影響額の比較となります。

事例

上記のように、資産取得資金と特定費用準備資金を比較した場合、遊休財産額に差はありませんが、遊休財産の保有上限額に差が生じます。

その結果、特定費用準備資金で積立を行うと要件を満たすことができますが、資産取得資金では、要件を満たすことが出来ていないというケースも想定されます。

このように、積立内容により影響額が異なる可能性があるため、要件を満たすための必要な積立額については、事前にシミュレーションを行うべきであると言えます。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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