社団法人の基準日とは
本記事の対象者
本記事は、「一般社団法人」及び「公益社団法人」の事務局の方、理事及び監事の方を対象としています。なお、記事中では、「一般社団法人」と「公益社団法人」を総称して「社団法人」と記載しています。
本記事の概要
本記事は、社団法人の基準日を設定することが可能であるかについて解説しています。なお、本記事では、公益法人の運営に関して出版されている複数の専門書の意見を取りまとめる形で作成しています。
また、説明の都合上、最初に株式会社における基準日の概要を説明し、比較する形で社団法人の基準日について検討を行っています。
本記事の注意点
社団法人の基準日については、専門家の間でも意見が相違しています。そのため、別の専門家とは意見が異なる可能性もありますので、ご留意ください。
基準日とは(株式会社)
まず、基準日とは何かについて解説します。
基準日とは、株式会社における制度となっており、一定の日(基準日)において株主名簿に記載されている株主をその株式を保有することによって付与される権利を行使することができる者と定めることができる制度となっています。
基準日のメリット(株式会社)
3月決算の株式会社が6月に株主総会を開催する場合、3月31日を基準日と設定することにより、3月31日時点で株式を保有している者を株主として取り扱い、招集通知などを発することが可能となります。
公開会社などは、株式の変動が頻繁に起こることから、特定の日に株主を確定させることができ、その者に対して招集通知を発すれば良いというのは、大きなメリットと言えます。
基準日の趣旨(株式会社)
株式会社における基準日の趣旨は、株主が株式を原則として事由に第三者に譲渡できるため、会社が知らないところで株式が譲渡され株主の地位も変動することになることから、会社が一定の時点における株主名簿の記載を基準として権利行使できるものを定めることによる事務処理の便宜を図ることにあります。
社団法人における基準日の可否
前項で、株式会社における基準日について解説を行いました。
一方、社団法人については、基準日を認める明文の定めがありません。
そのため、社団法人においても基準日を設定し、特定の日の社員名簿に記載されている社員に対してのみ社員総会の招集通知を発することが可能でるかが問題となります。
ここで、株式会社において基準日を設定する趣旨は、「会社が知らないところで株式が譲渡され株主の地位も変動する」という株式会社の株式制度の特徴に対する事務処理の便宜を図る事にありました。
しかし、社団法人の場合には、社員となる場合には、社団法人との入社手続きが前提となるため、株式会社異なり社団法人が知らないところで社員の地位が変動するということはありません。
上記のように、株式会社と同様の基準日を社団法人に設定し、基準日の後に社員になった者の議決権の行使を制限することは、合理的な制限と言えない可能性があります。
そのため、社団法人が基準日を設定し、基準日以降に社員になった者に招集通知の発しないなどの取り扱いを行った場合は、招集続きに法令違反があったとして決議取消事由とされる可能性が懸念されます。
実務的な対応方法
上記での解説のように社団法人で基準日を設定することは、決議取消事由となる可能性があります。
そのため、社団法人は、社員総会の当日までに社員となった者に対して招集通知を発する必要がありますが、社員総会の直前に社員となった者に対しては、社員総会の日の所定の期間前までに招集通知を発することができない場合も想定されます。
このような招集通知を発することが困難な場合において、招集通知を発することが出来なかったために招集手続きが法令に違反するかは、専門家の間でも見解が分かれるところです。
ここで、実務的な対応としては、社員総会前の一定期間は、社員総会終了までの間、社員になることを希望する者の入社手続きを保留し、社員総会後に社員となるように調整するという手法が想定されます。なお、この保留する期間は、必要最小限の合理的な期間である必要があると考えます。
まとめ
本記事では、社団法人における基準日の設定の可否について詳細に解説しました。株式会社において基準日は、株主の権利行使を整理するための有用な制度ですが、社団法人が基準日を設定し、その日以降に社員となった者に対して招集通知を発しないことは、決議の取消事由となるリスクがあります。
実務的な対応としては、社員総会前の一定期間、社員となる手続きを合理的な期間保留することにより、招集手続きの法的な問題を回避し、社員総会を円滑に進行することが可能となります。