公益法人の役員の責任減免制度とは
本記事の対象者
本記事は、「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」の理事及び監事の方向けの記事となります。
なお、本記事内では、「公益社団法人」「公益財団法人」「一般社団法人」「一般財団法人」を総称して「公益法人」と記載します。
本記事の概要
公益法人の理事は、理事会の構成員として、公益法人の業務上の意思決定に参画し、代表理事等の業務執行を監視する役割を担っています。善管注意義務や忠実義務などの義務は、個々の理事に課されており、義務違反等の場合には、損害賠償責任を負うことがあります。
また、公益法人の監事は、理事の職務の執行を監査するため、各種の権限が付与されており、善管注意義務等の義務が課されています。監事が複数いる場合であっても、その権限は各監事が独立して行使でき、義務は各監事がそれぞれ負うことになり、義務違反等の場合には、損害賠償責任を負うことがあります。
これらの損害賠償責任について、一定の場合、免除される制度が定められています。
本記事では、これらの免除制度について解説を行います。
なお、本記事では、補償契約や役員等賠償責任契約については、説明の対象から除外します。
理事及び監事の責任減免制度
理事及び監事の損害賠償責任の減免制度には、以下の3つがあります。
- 社員・評議員全員の同意による責任免除
- 社員総会・評議員会の決議による一部責任免除
- 理事会の決議による一部責任免除
- 責任限定契約
以降、これらの減免制度について解説します。
社員・評議員の全員同意による責任免除
理事及び監事の公益法人に対する損害賠償責任については、社員・評議員の全員が同意する場合に免除されます。
社員・評議員の全員が責任を追及する必要がないと判断した場合のみ、理事及び監事の公益法人に対する責任を免除しようとするものであり、本免除制度は、責任免除の原則的な取り扱いとなります。
社員総会・評議員会の特別決議による一部責任免除
前項で説明した社員・評議員の全員同意による責任免除は、全員の同意が必要であり、要件として成立が厳しく、理事及び監事は、軽過失の場合であっても多額の損害賠償責任を負う可能性があります。
そこで、人材確保が困難とならないようにするため、善意で、かつ重大な過失がない場合には、社員総会・評議員会の決議により一部責任を免除する制度が設けられています。
当該一部責任免除制度は、理事及び監事が善意、かつ重大な過失なく行った職務に基づいて公益法人に対して負った責任については、その賠償しなければならない金額のうち、最低責任限度額を超える金額を社員総会・評議員会の特別決議によって免除することができます。
例えば、社団法人の場合、社員総会の特別決議は、総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2(定款でこれを上回る割合を定めることも可能)以上の賛成で決議可能であり、社員全員の同意を得るよりも要件が緩和されています。
責任限定契約
ここで、最低責任限度額とは、以下の金額となります。
役員の区分 | 最低責任限度額 |
---|---|
代表理事 | 法人から得る1年間当たりの報酬の6倍 |
業務執行理事、使用人を兼務する理事等 | 法人から得る1年間当たりの報酬の4倍 |
上記以外の理事(平理事) | 法人から得る1年間当たりの報酬の2倍 |
監事 | 法人から得る1年間当たりの報酬の2倍 |
例えば、平理事として報酬を年間5万円貰っており、適切に理事としての業務を行っていた場合を想定します。仮に1,000万円の損害賠償責任が生じたとしても社員総会・評議員会の特別決議により最低責任限度額10万円(年間5万円の報酬の2倍)を超える990万円については、責任を免除することが可能となります。
理事会の決議による一部責任免除
前項では、社員総会・評議員会の特別決議による一部責任免除について解説しましたが、一定規模の公益法人では、社員総会・評議員会の特別決議を得ることが困難であること、また社員・評議員が多額の損害賠償が生じている状況で理事の責任を一部免除する決議に同意しない可能性もあることが想定されます。
上記のような可能性が想定される状況では、適切に理事及び監事としての業務を行ったとしても社員総会・評議員会の特別決議を得られない可能性があり、多額の損害賠償責任を負う可能性あるため、やはり人材の確保が困難となります。
そこで、理事及び監事が職務を行うにあたり、善意、かつ重大な過失がなく、一定の要件を満たした場合には、理事会の決議によりその責任の一部を免除することが可能とする制度が設けられています。
これは、前項までの責任免除は、社員総会・評議員会の特別決議を必要としましたが、これを理事会の決議での一部責任免除が可能とする制度であり、適切に対応していた理事及び監事の責任を免除できる可能性が高くなります。
免除額については、社員総会・評議員会の決議により一部責任を免除する制度と同様にその賠償しなければならない金額のうち、最低責任限度額を超える金額となります。
なお、当該理事会の決議による一部責任免除を適用するためには、定款への記載と登記が必要となります。
責任限定契約
前項までで理事会の決議による一部責任免除について解説を行いましたが、理事の過半数に過失があり、当該免除制度により一部責任を免除される理事及び監事が少数である場合、意図的に理事会による一部責任免除の決議が可決されない可能性もあります。
適切に理事及び監事としての業務を行ったとしても理事会の決議を得られない可能性があり、多額の損害賠償責任を負う可能性が高いという状況では、やはり人材の確保が困難となることが想定されます。
そこで、外部の人材が公益法人の役員に就任するにあたり、想定外の損害賠償責任を回避し、人材の確保をしやすくするために責任限定契約という制度が設けられています。責任限定契約により社員総会・評議員会や理事会の決議がなくても責任を限定することが可能となります。
ここで、責任限定契約とは、職務を行うにあたり善意、かつ重大な過失がないときは、理事及び監事が公益法人に対して負う損害賠償責任について、一定の額を限度とする契約のことをいいます。
なお、責任限定契約を締結できるのは、非業務執行理事等に限定されており、非業務執行理事等とは、業務執行理事以外の理事、監事及び会計監査人が該当します。
また、責任限定契約を締結するには、その旨の定款への記載と登記が必要となります。
第三者に対する責任
前項までで理事及び監事の公益法人に対する損害賠償責任の免除について解説しました。
公益法人に対する損害賠償責任の免除については、法令上の定めがありますが、第三者に対する理事及び監事の損害賠償責任を減免する制度は、法令上の定めはありません。
そのため、第三者に対し損害を与えた場合は、最終的に訴訟等により責任の有無や金額等が決定されることになります。
まとめ
公益法人の理事及び監事には、公益法人に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
しかし、適切に業務を行っている理事及び監事に対しては、公益法人に対する損害賠償責任を免除する制度があります。
特に、理事会決議による一部責任の免除や責任限定契約は、有用な制度であり、理事及び監事となる方が安心して役員に就任できるようにするためにも必須の制度言えます。
ただし、理事会決議による一部責任の免除や責任限定契約は、定款への記載と登記が必須の条件となっています。
外部の方が公益法人の役員になる際は、就任予定の公益法人の定款と登記簿を確認し、上記の理事会決議による一部責任の免除や責任限定契約の記載がなされているか就任前に確認するなどし、自身が就任予定の公益法人の責任の免除制度について理解をすることが有用となります。