【公益法人の決算書作成の進め方】

公益法人,決算

公益法人の決算書作成は、株式会社等の決算業務とは大きく異なります。

それは、公益法人の決算が税務だけでなく、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下、「認定法」)が定める要件についても考慮する必要があるためです。

そこで、本ブログでは、効率的に決算書の作成を進めるための作業手順について解説します。

本記事の対象とする公益法人

まず、はじめに本ブログが対象とする「公益法人」の定義を明確にしたいと思います。

「公益法人」と言う場合、いろいろな定義がありますが、本ブログの対象は、「公益社団法人」と「公益財団法人」とし、「一般社団法人」や「一般財団法人」を含めないものとします。

また、「公益社団法人」と「公益財団法人」を区別せず、「公益法人」として説明を行います。

公益法人が実施すべき決算業務

まず、公益法人の決算業務を行うにあたり、どのような法令や基準を考慮する必要があるの整理したいと思います。

公益法人の決算業務を進めるにあたり、以下の法令と基準を考慮する必要があります。

  • 公益法人会計基準
  • 法人税法、消費税法
  • 認定法

特に、認定法について考慮しなければならないという点が株式会社等の決算と大きく異なることになります。

そのため、まずは、認定法について考慮しない場合の決算書作成の流れを確認します。

認定法を考慮しない場合の決算書作成の手順は、以下のようになります。

認定法を考慮しない決算書作成手順

作業項目主な作業内容
決算整理仕訳(株式会社等とほぼ同じ)未収金、未払金等の計上
棚卸資産の計上
減価償却費の計上
有価証券の時価評価等
引当金の計上
消費税の処理消費税の算定と未払消費税等の計上
費用等の配賦計算各事業に共通して発生する費用の配賦処理
法人税計上前の正味財産増減計算書内訳表の確認収益や費用が各事業に適切に計上されているか確認
法人税等の処理法人税等の算定と未払法人税等の計上
貸借対照表内訳表の確認各資産及び負債項目が適切な会計区分で処理されているか確認
決算書一式の作成決算書一式の作成
公益法人会計基準の表示形式に従い決算書一式の作成

上記は、認定法を考慮しない場合の決算書作成の手順となります。

「費用等の配賦計算」や「正味財産増減計算書内訳表の確認」、「貸借対照表内訳表の確認」が株式会社等の決算書類と異なる特有の決算処理となっています。

ただし、公益法人専用の会計ソフトを使用し、適切な設定を行っていれば、上記については、問題なく処理することが可能となるケースが多いと考えられます。

「一般社団法人」や「一般財団法人」は、認定法の影響を受けないため、上記の手順で決算書を作成することが可能となります。

しかし、公益法人の場合は、認定法を考慮する必要があるため、追加で以下の作業を行う必要があります。

下記の一覧のうち、太字の箇所が認定法を考慮する場合の追加項目となります。

認定法を考慮した場合の決算書作成手順(財務三基準の検討前)

作業項目主な作業内容
決算整理仕訳(株式会社等とほぼ同じ)未収金、未払金等の計上
棚卸資産の計上
減価償却費の計上
有価証券の時価評価等
引当金の計上
消費税の処理消費税の算定と未払消費税等の計上
費用等の配賦計算各事業に共通して発生する費用の配賦処理
法人税計上前の正味財産増減計算書内訳表の確認収益や費用が各事業に適切に計上されているか確認
別表F1、別表F2の作成と確認役員報酬の個人別内訳や人件費の各事業への計上比率等を確認
人件費以外の項目について、各事業への計上比率を確認

認定法を考慮した場合の決算書作成手順(財務三基準の検討段階)

作業項目主な作業内容
他会計振替額の概算算定と財務三基準(収支相償、公益目的事業比率、遊休財産保有制限規制)の確認
(別表A、別表B、別表Cの作成)
認定法で求められている財務三基準の要件を満たしていることを確認
財務三基準を満たしていない場合の対応検討財務三基準の要件を満たさない場合、特定費用準備資金等の積立の検討
他会計振替額の確定と計上認定法で求められている収益事業等会計から公益目的事業会計への利益の繰入の算定と処理

認定法を考慮した場合の決算書作成手順(財務三基準の検討後)

作業項目主な作業内容
法人税等の処理法人税等の算定と未払法人税等の計上
遊休財産保有制限の要件を満たしているか最終確認(必要に応じて)未払法人税等の計上を行う場合、負債が増加するため、遊休財産保有制限規制に影響するため、再度最終の決算数字に基づき要件を満たすことを確認
貸借対照表内訳表の確認各資産及び負債項目が適切な会計区分で処理されているか確認
決算書一式の作成公益法人会計基準の表示形式に従い決算書一式の作成

ここからは、認定法を考慮し決算書を作成する場合、追加される作業についてその内容を解説します。

最初に、認定法における事業報告等の定期提出書類(以下、「定期提出書類」)という書類について説明します。

定期提出書類は、認定法に基づいて決算日後3ヶ月以内に行政庁にを提出する必要がある書類であり、この書類は、公益法人が認定法に従い事業運営を行っていることを確認する書類となっています。

そのため、定期提出書類で作成する書類には、公益法人が作成した決算書に基づいて作成する書類が複数含まれます。

決算書に基づいて作成する定期提出書類の別表

具体的には、以下の書類が決算書に基づいて作成する書類となります。

  • 別表A(収支相償の要件を満たしていることを確認する書類)
  • 別表B(公益目的事業比率の要件を満たしていることを確認する書類)
  • 別表C(遊休財産額保有制限の要件を満たしていることを確認する書類)
  • 別表F(各事業への役員報酬等の費用の配賦状況を確認する書類)

上記の収支相償や公益目的事業比率、遊休財産額保有制限などの認定法で公益法人に求められている要件の内容については、別のブログで説明したいと思います。

ここでは、公益法人の決算書では、「認定法において守らなければならないルールがある」とだけ理解してください。

決算書作成段階で定期提出書類の別表を確認する必要性

先ほど記載したように定期提出書類は、決算日後3ヶ月以内に作成し提出する必要があります。

そのため、公益法人は、決算後3ヶ月以内に決算社員総会、決算評議員会を開催し、決算書を確定させる必要があります。

したがって、決算書の作成は、定期提出書類の作成前に完成している必要があります。

しかし、決算書が決算社員総会等で承認された後に定期提出書類を作成する場合、定期提出書類の作成段階で認定法の求める要件を満たさないことに気が付くことが多々あります。

上記のように決算書確定後に定期提出書類を作成し、認定法の要件を満たしていないことを把握したとしても、決算書を修正することは困難なケースが多いと想定されます。

そのため、決算書の作成段階で、認定法の定める要件を満たしていることを確認する必要があります。

ここで、認定法の定める要件を満たしていることを確認しながら決算書を効率的に作成するための手順が上記で示した手順となります。

以下、「認定法を考慮した場合の決算書作業手順」で追加された項目(黒字の項目)について、「なぜその確認が必要なのか?」を解説します。

別表Fの作成と確認

別表Fは、役員報酬の個人別内訳金額や人件費、その他費用がどの事業にいくら計上されているかを明確にする資料となります。

この資料を作成する段階で決算書に計上している役員報酬と個別に計算した役員報酬の相違に気づくこともあるため、決算書作成段階で作成することを推奨します。

他会計振替額の概算算定と財務三基準(収支相償、公益目的事業比率、遊休財産保有制限規制)の確認

収支相償、公益目的事業比率及び遊休財産額保有制限という財務三基準を決算書で満たすことが求められます。

当該要件を満たしていることは、決算書作成段階で確認する必要があるため、他会計振替額の概算算定を行い、財務三基準の検討を行う必要があります。

また、確認を行うタイミングとしては、法人税の計算を行う直前に行う必要があります。

ここで、法人税の計算前に行う必要がある理由を説明します。

財務三基準の検討の結果、要件を見たさないと判断された場合、財務三基準を満たしていない場合の対応として積立金等の処理が必要となります。

ここで、当該積立金等の積立を行う場合、当該積立処理が法人税の計算に影響する可能性があります。

仮に、法人税の計算後に財務三基準の検討を行い、積立金等の積立処理を行った場合、当該積立金等の処理が法人税の計算に影響を与えるため、再度法人税の計算と仕訳処理が必要となります。

このような手間を排除し、効率的に決算作業を行う観点から財務三基準の検討は、法人税の計算前に行うことが有用となります。

財務三基準を満たしていない場合の対応検討

財務三基準の検討の結果、収支相償、公益目的事業比率、遊休財産額保有制限の要件を満たしていないことが判明すること往々にしてありえます。

その場合は、特定費用準備資金等の積立で対応を行うことになります。

なお、当該要件を満たすための具体的な方法については、以下のブログに記載していますので、そちらを参考にしてください。

他会計振替額の確定と計上

財務三基準の要件を満たしていることを確認し、特定費用準備資金等の積立処理も実施した後に、他会計振替額の確定額の算定を行い、仕訳処理を行います。

財務三基準の検討段階で他会計振替額の影響を考慮する必要があるため、事前に他会計振替額の概算額を算定し、財務三基準の検討を行います。

そのうえで、特定費用準備資金の追加積立等を行った場合は、当該積立が他会計振替額の算定に影響を及ぼす可能性があるため、積立処理後に再度、他会計振替額の算定を行います。

なお、算定した他会計振替額は、法人税等の計算に影響を及ぼすため、ここまでの作業を法人税の算定前に行うことが求められます。

法人税等の未払計上後に遊休財産保有制限の要件を満たしているか最終確認(必要に応じて実施)

法人税等を未払法人税等として負債に計上する場合は、未払計上に伴い負債が増加し、正味財産が減少します。

そのため、正味財産の減少に伴い特定費用準備資金等の積立額を減少させるても遊休財産額の保有制限の要件をクリアできることもあり、積立額の最終調整を行うことも可能です。

しかし、特定費用準備資金等の積立の調整は、法人税額の計算に影響を与えることになります。

そのため、私見とはなりますが、この段階では、法人税等の税金が最小となるように調整されているのであれば、特定費用準備資金等の積立金の調整を再度行う必要性は乏しいものと考えます。


本ブログでは、公益法人の決算書の作成手順について説明を行いました。

今回の作成手順は、効率的に作成することを主眼としており、目的に応じて他の作業手順も考えられます。

ただし、どのような目的であっても、公益法人の決算書を作成するにあたり、定期提出書類についても同時並行的に作成すること、具体的には、別表A、別表B、別表C、別表Fついては、決算作業と同時に作成することにより効率的な決算作業を進めることが可能となります。

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この記事の監修者

               

株式会社アダムズ/堀井公認会計士事務所
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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