公益認定申請時の定款
記事の対象者
本記事では、以下の方を対象としています。
- 「公益社団法人」、「公益財団法人」を目指すために新しく「一般社団法人」、「一般財団法人」を設立することを予定している方
- 既に「一般社団法人」、「一般財団法人」を運営している方で、これから「公益社団法人」、「公益財団法人」を目指す方
なお、本記事内では、「公益社団法人」及び「公益財団法人」を総称して「公益法人」とし、「一般社団法人」及び「一般財団法人」を総称して「一般社団法人等」と呼ぶことにします。
記事の概要
一般社団法人等が公益法人になるためには、「公益認定」と呼ばれる認定を受ける必要があります。
具体的には、一般社団法人等が公益認定に関する申請書を作成し、行政庁(内閣府など)に提出を行います。
そして、当該公益認定申請書に基づき公益認定等委員会より審査が行われ、認定を受ける必要があります。
ここで、当該公益認定の申請にあたり、「定款」についても添付書類として提出することになります。当然、定款も審査項目となるため、公益法人として適切な定款を作成する必要があります。
本ブログでは、公益認定申請のための定款について説明を行います。
一般社団法人等、公益法人共通の定款記載事項
まず、定款の基本について説明を行います。
ここで、定款とは、公益法人の基本規則を定めたものであり、法人の目的や事業内容、運営方法などが記載されます。
当該記載内容は、大きく以下の3つに区分されます。
- 絶対的記載事項(必要的記載事項)
- 相対的記載事項
- 任意的記載事項
以降、これらの3つの記載項目と性質について説明を行います。
絶対的記載事項(必要的記載事項)
まず、絶対的記載事項とは、定款に必ず記載しなければならない事項です。
そのため、絶対的記載事項が記載されていない定款は、無効となります。
以下、一般社団法人等の定款の絶対的記載事項となります。
- 目的
- 名称
- 主たる事務所の所在地
- 設立時社員の氏名又は名称及び住所(社団法人のみ)
- 社員の資格の得喪に関する規定(社団法人のみ)
- 設立者の氏名又は名称及び住所等(財団法人のみ)
- 評議員の選任及び解任の方法(財団法人のみ)
- 公告報告
- 事業年度
ここで、一般社団法人等の設立時は、公証人の認証等もあるため、絶対的記載事項が記載されていないということはありません。
しかし、法人設立後の定款変更時に誤って削除してしまったということもあるため、記載漏れがないか公益認定申請時には、確認が必要となります。
相対的記載事項
次に、相対的記載事項とは、定款に記載がないと効力を生じない事項です。
絶対的記載事項と異なり、定款に記載がなくても定款は有効となりますが、記載がないと効力を生じない項目となります。
そのため、一般社団法人等の運営に有利となる事項や必要となる事項が相対的記載事項である場合には、当該記載が漏れると運営に問題が生じるため、記載漏れに注意が必要となります。
以下、一般社団法人等のち定款の相対的記載事項の例となります。
- 社員の経費の支払義務(会費や入会金の定め)
- 理事及び監事の任期の短縮
- 理事会の決議の省略 など
任意的記載事項
最後に、任意的記載事項とは、法令に違反しない内容であれば、一般社団法人等が任意に記載できる事項です。当該記載がなくても定款が無効になることはなく、また効力も否定されません。
そのため、一般社団法人等の運営にあたり変更したくないルールなどは、任意的記載事項として定款に記載すると良いでしょう。
逆に、流動的に変更する可能性があるルールなどは、定款に記載してしまうとルールの変更に定款変更の手続きが必要となるため、そのような記載は行わない方が良いと考えます。
任意的記載事項としては、以下のような記載をされることがあります。
- 委員会などの法人独自に機関についての記載
- 事務局の法人運営についての記載
- 会員の義務の記載
公益法人特有の定款記載事項
公益法人として認定を受けるためには、上記の一般的な定款記載事項に加えて、公益法人特有の事項を記載する必要があります。
具体的には、以下の項目を記載する必要があります。
- 会計監査人を置く旨の定め(会計監査人を置く場合のみ)
- 理事会、監事を置く旨の定め(社団法人のみ)
- 不可欠特定財産についての定め(該当する財産がある場合のみ)
- 公益認定の取消し等に伴う贈与についての定め
- 残余財産を他の公益法人等に帰属させる旨の定め
上記のうち「公益認定の取消し等に伴う贈与についての定め」と「残余財産を他の公益法人等に帰属させる旨の定め」については、一般社団法人等の定款には記載されていないことが多いため、追記が必要となります。
定款と税法との関係
上記までで説明した絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項、公益法人特有の記載事項は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」及び「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」に基づく記載事項であり、税法は考慮していません。
ここで、「非営利型」の一般社団法人等の場合は、上記で説明した定款の記載事項に加えて以下の事項を記載する必要があります。
完全非営利法人型の記載事項
- 剰余金の分配を行わないこと
- 解散したときは、残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与すること
共益型の記載事項
- 会費の定め
※共益型の場合は、以下の事項を記載しないことが要件となっています。
- 特定の個人又は団体に剰余金の分配を行うことの記載がない
- 解散したときにその残余財産を特定の個人又は団体に帰属させることの記載がない
非営利型の一般社団法人等の説明については、以下のブログが参考となりますので、こちらも合わせてご参照ください。
租税特別措置法40条に注意
また、個人から一般社団法人等や公益法人に現物資産等の寄贈を行う場合は、租税特別措置法40条の規定に従う記載事項も必要となる可能性もあります。
租税特別措置法40条については、別ブログで説明を行う予定です。ただし、非常に複雑なルールのため、以下に該当するような運用を検討している場合は、必ず専門の税理士、公認会計士にご相談することをお勧めします。
(例)
個人が保有している有価証券や不動産、著作権を一般社団法人等に無償譲渡し、その運用益を使用して一般社団法人等で公益目的事業を実施する。
公益認定申請と定款変更の手続きとタイミング
定款変更とルールの見直し
公益認定申請を行う場合は、多くの事例において、申請のタイミングで定款の見直しを行います。
定款の見直しにあたり、「公益認定の取消し等に伴う贈与についての定め」と「残余財産を他の公益法人等に帰属させる旨の定め」などの公益法人特有の記載を追加する必要があります。
また、公益法人は、行政庁の調査等を通じて法令及び定款の遵守状況を常時確認されるため、公益法人としての運営を見据えた内容に変更を行う必要もあります。
上記のように、公益法人の運営として問題が生じないようにするために、特に「相対的記載事項」については、公益認定申請前に検討を行い、法人運営が無理なくできるようにルールの見直しを行う必要があります。
定款変更の手続き
定款の変更は、特別決議により行われます。特別決議の要件は、定款により要件を重くすることも可能となるため、自法人の定款を確認し、特別決議の要件の確認をするようにしてください。
なお、参考までに一般社団法人の通常の特別決議の要件は、以下のようになります。
「総社員の半数以上であって、社員の議決権の3分の2以上に当たる多数の賛成」
一般的に公益法人を目指す一般社団法人の場合、1社員=1議決権と定めているケースが多いと想定されます。
したがって、1社員1議決権である場合、社員全員の3分の2以上の賛成を得る必要があるということになります。
定款変更のタイミング
定款変更の決議は、公益認定申請前に行うことが必須です。しかし、当該定款の効力発生時期については、以下の2パターンが想定されます。
定款変更の決議と同時に効力発生
定款変更の決議と同時に定款変更の効力を生じさせます。
法人名については、「一般社団法人◯◯」や「一般財団法人◯◯」のままにし、公益社団法人等の名称は使用しません。
ここで、一般社団法人等が公益認定を受けたときは、一般社団法人等から公益法人への名称変更の定款変更をしたものと見做されます。
公益法人になったタイミングに効力発生
いわゆる停止条件付きの決議の承認と呼ばれるものであり、公益法人になった場合は、定款変更をするという条件付きの定款変更となります。
したがって、公益法人になる前は、既存の定款が有効であり、公益法人になった後は、決議で承認された定款が有効となります。
この手法は、公益法人になれなかった場合に、既存の定款の運営運用を継続できるため、便利な手法ですが、公益認定申請の事例において不可とされたことがあります。
当時の内閣府の担当者の話では、法的根拠はないが、登記が関係する定款の変更を行った場合は、登記内容を確認するため、停止条件付きの定款変更は認めていないという指導を行っているとのことでした。
上記のような事例もあるため、公益認定申請にあたっての定款変更は、停止条件付きの定款変更ではなく、定款変更の決議と同時に定款変更の効力を発生される手法で行うことが無難と考えます。
結論
公益法人を目指す一般社団法人等にとって、定款の変更は重要なステップとなります。
特に、公益認定申請前に行う定款変更は、公益法人としての運営を円滑に行うために欠かせません。
公益法人特有の記載事項を追加するだけでなく、相対的記載事項や任意的記載事項についても慎重に見直しを行い、法人運営に支障がないようにすることが求められます。
また、定款変更の手続きやタイミングについても十分に理解し、適切な対応を行うことで、スムーズな公益法人への移行が可能となります。
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